築10年を過ぎたあたりから、管理会社から提案される大規模修繕工事。
方式(進め方)の説明をされたけど、どうしたらいいのかわからず困った…という声をよく聞きます。
- 設計監理方式ってどんな進め方なの?
- 設計監理方式を勧められたけど、大丈夫?
- 最近よく聞くプロポーザル方式って何?
こんな疑問をお持ちの方も多いはず。
そこで今回は、
- 大規模修繕工事の進め方
- 設計監理方式とプロポーザル方式
- どの方式(進め方)を採用するべきか
についてお話したいと思います!
今回説明する設計監理方式やプロポーザル方式はあくまでも一般的にはこういうものを指す、というお話で、会社によって若干仕様が異なります。
理事会で検討する際には各設計事務所や管理会社からしっかり説明を受けて判断してください。
大規模修繕工事とは
分譲マンションの管理に携わっていると、管理会社の人などは「大規模修繕工事」という言葉をよく使いますが、一口に大規模修繕工事といっても、工事の内容や範囲で明確に定義があるわけではありません。
ただ、業界の人がどんなものを指して「大規模修繕工事」と呼んでいるかというと、
- およそ12年~15年周期で計画的に
- 足場もしくはゴンドラ等を架けて
- 4ヶ月~6ヶ月くらいかけて(タワマンだともっと長い)
- 防水・外壁補修・シーリング・鉄部塗装などをまとめて行う
大掛かりな工事
のことを一般的には大規模修繕工事と呼んでいます。
通常の工事と異なり複数の工事を行うため、それらをまとめて請負える大規模修繕工事専門の工事会社と、工程の管理ができる現場代理人(現場監督)が必要になります。
大規模修繕工事の進め方
「大規模修繕工事 進め方」で検索すると、修繕委員会を組織しろとか、責任施工(特命発注)にするか設計監理方式にするかとか、色々と出てくるわけですが、要するにどうやって施工会社を選ぶのかが重要な論点になります。
修繕委員会を作るとかは余程がっつり組織づくりをやっている組合は別としてガス抜きだったりアリバイ作りだったりといった枝葉の問題なので割愛するとして、今回は多くの組合が管理会社から唐突に(いちおう長期修繕計画には書かれているのだけど)提案されて
「え…どうすればいいの?」
となることが多い責任施工(特命発注)方式・設計監理方式・プロポーザル方式等の発注方式(進め方)の違いについてお話しします。
また、責任施工(特命発注)については管理会社に丸投げの管理会社元請の責任施工、もしくは組合員の誰かが施工会社とコネがあるといった特殊なケースを除いてほとんど採用されないので今回は割愛しようと思ったのですが、リクエストがありましたのでこちらについても補足します。
大規模修繕工事|設計監理方式とは
設計監理方式は、↑の図のようにまず設計監理コンサルタント(設計事務所等の他、管理会社も設計監理業務の提案をする会社も多いです)と契約し、工事の仕様書作成(設計)をしてもらい、その仕様に基づいて施工会社各社に見積を依頼します。
また、工事期間中の巡回施工チェックや、大規模修繕工事完了後のチェック等(施工監理)も行います。
メリット・デメリットを整理すると以下のとおり。
- 仕様が揃っているので見積を比較しやすい
- 比較しやすいので一般の組合員からは透明性があるように見える
- 多くの場合は事前に劣化診断を行うので一般の組合員にも納得感がある
- 設計監理コンサルタントが施工チェックもしてくれる
→理事会が矢面に立たされにくいアリバイ工作的な側面が強い
➡管理会社が得意
➡初心者、輪番理事会向き
- 仕様書(設計)を作る担当者の力量が低いと時代遅れ・低品質の材料や工法が採用されかねない
- 基本的には出来レースで、どの施工会社に受注させるかはほぼ決まっている
- 仕様書もその施工会社に作らせていて単なるピンハネ稼業になっている会社も多い
➡管理会社の工事部によくいる”ボス猿”チックなマウンティング先生が担当になると、工法や材料等の知識がアップグレードされていないにも関わらず、プライドばかり高くて施工会社の話を聞かずにおかしな工事仕様になることも。
この点については以前書いた↓の記事をご参照ください。
大規模修繕工事|プロポーザル方式とは
先ほどお話しした設計監理方式に対して、仕様は決めずに施工会社の選定補助を行い、工事仕様は各施工会社から提案を受けるのがプロポーザル方式です。
基本的には設計監理方式のマズい部分を改善するべく考案された方式です。
- 予め工事仕様を決めずに施工会社各社からの提案を受けるので、現場の第一線で工事をしている施工会社から最新の提案を受けられる可能性が高い
- 施工会社各社からの提案を聞いた上で何を採用するか判断していくため、理事会の負担は比較的大きくなる
- 工事監理等の施工チェックは基本的に別契約
➡上級者、コアメンバーがいる理事会向き
参考|責任施工(特命発注)方式
責任施工(特命発注)方式は本当にそのまんま、コンサルタントを入れずに特定の1社に発注する方式(進め方)ですが、管理会社に発注する場合と、施工会社に発注するのではまた少し事情が異なるので分けてお話しします。
①管理会社の責任施工(特命発注)方式の場合
結論から言うと、管理会社の責任施工(特命発注)は実質的に設計監理方式とほぼ同じです。
もちろん契約書上の立ち位置やお金の流れは違いますが、管理会社自ら施工部隊を抱えているわけではないので、実際の施工は協力会社(大規模修繕工事専門の工事会社)に任せることになります。
売り文句としては、
- 工事会社の選定補助を行います
- 設計監理方式と違い管理会社自ら請負うので責任の所在がはっきりします
- 工期中の施工監理、竣工後のチェックも責任を持って行います
というわけですが、受けるサービスとしては管理会社に設計監理を依頼したときとほぼ変わりません。
管理会社によって、基本的に①設計監理だけ提案する会社、②責任施工(特命発注)だけ提案する会社、③組合からの要望があればどちらでも提案する会社、がありますが、組合から見れば受けられるサービスは大差ないので管理会社に任せるならその会社が慣れている方で依頼すれば良いかなと思います。
- 工事金額が丸々売上になるので、当然売上額は大きくなる
- 元請なのでより責任が重くなる
という違いがあります。
元請の責任を考えたらその分上乗せで利益を乗せないと割に合わないので、割高になる…のが普通ですが、設計監理であっても責任施工であっても施工会社からいくらバック貰ってるかは非開示(責任施工で見積に利益率と金額を書いていても、実際にはそれ以上施工会社からバックを貰っている会社も見たことあります)なのでまぁあんまりここにこだわらなくてもいいんじゃないかなと。
組合側でそんなに汗かけないなら管理会社にしっかりお布施して「しっかりやりたまえ」で任せるのも私はアリだろうと思っています。
②施工会社の責任施工(特命発注)方式の場合
こちらは本当に誰もサポートしてくれないので、冒頭でも少し触れたとおり何から何まで、施工会社の選定から資金計画、仕様の検討、施工の進捗チェック、現場代理人(現場監督)への支持等々を無限に理事会でやることになります。
管理会社時代に一度、理事長のお子さんのご学友のお父様が地場の工事会社にお勤めでそこに責任施工で発注した経験がありますが、
- 理事長が自分で資金計算(○年△月から✖号室の修繕積立金徴収額は◎円、▲月以降は□円等全タイプ計算)して徴収計画表を作成
- 劣化状況の整理、説明資料も全部理事長が自分で作成
- 施工中に何かあれば全て理事長が自分で現場代理人と調整
- 説明会や竣工報告会の段取りも全て理事長が自分でやる
という状況で、作業量が膨大になるので一部の超人を除いてあまりお勧めはできません。
組合側にきちんと動ける人がいるのが大前提で、施工会社も「ここなら信頼できる」というとこが無いならかなり厳しいと思います。
余談ですが、最初立候補したときは「管理会社は信用できません!私がやります!」「管理会社は黙っていてください!」と一喝されたりしていたのですが、大規模修繕工事も終わって理事長を退任されるときに、もう1年どうですか?と茶化したら「いや、もうたくさん」と言って苦笑いしてくださって、短い言葉のやり取りでしたが「ま、お前の言ってたことがわかったよ」と認めてくださったような気がして、ちょっと嬉しかったことを覚えています。
大規模修繕工事で大事なのは方式(進め方)よりも”担当者”
設計監理方式とプロポーザル方式、それぞれの進め方ともに共通するのは施工会社選定で、ざっくり言えば異なるのは仕様を予め決めるかどうか(プロポーザル方式であっても別契約で施工監理も付けられることが多い)なわけですが、じゃあどっちが良いの?というと…
重要なのは現場代理人(現場監督)やコンサルタントの腕前で、どの方式(進め方)を選ぶかよりも優秀な会社(人)を引っ張れるかどうかにかかっているというのが私の意見。
例えば、先ほど設計監理方式のデメリットとして、工事仕様を作成する担当者(コンサルタント)の腕前が悪いと低品質な工事がなされる可能性があるとお話ししましたが、逆に腕前が良いとか、きちんと施工会社の意見を聞いて組合に提案できる人ならその心配はないということになります。
また、出来レースにしてもやろうと思えばプロポーザル方式だってできてしまうわけですから、こういったことを考えればどの方式(進め方)を選ぶかよりも、組合のために誇りをもって仕事をしてくれる優秀なコンサルタント(もしくはそういった社員を抱える会社)を見つけられるかどうかが重要だと思うわけです。
というのも、管理会社時代の経験で、同じ施工会社でもコンサル担当者が違うと付けてくる現場代理人のレベルが明らかに違ったり…
そういう意味で、どの方式を選ぶかに拘泥するよりどの会社(担当者)が信用できるか、という視点で考えた方が良い工事をしてもらえると思うのです。
大規模修繕工事の進め方や注意点まとめ
今回は大規模修繕工事の進め方や各方式の注意点についてお話ししてきましたが、いかがでしたでしょうか。
設計監理方式、プロポーザル方式、どちらの進め方をするにしても、重要なのは担当者(コンサルタント)の腕前だと思います。
説明に来た担当者の話をしっかり聞いて、組合のために仕事をしてくれそうか、仕事に情熱を持っているかを見極めるようにしてみてください。
また、どうしても判断に迷う、心配なようでしたらスポットでのご相談もお受けしますので、お問い合わせフォームからご連絡ください。
10数年に一度の組合のお祭りですから、存分に楽しみましょう!