新型コロナウイルス蔓延に伴う営業自粛等で経済的に打撃を受けた方も多く、管理費等をはじめ各種支払いが滞りそう…という方もいらっしゃるかと思います。
マンション管理士の廣田信子先生がブログで「コロナで始まる管理費滞納に柔軟な対応を」と仰っているのを読んで驚愕。
申し訳ないですが信用失墜行為相当じゃないですかこれ。
何度も言いますがミクロとマクロは分けて考えるべきで、コロナショックによる経済困窮はマクロ(=国)で対応すべき案件。
そして個人的な温情は個人の私有財産でやってください。如何なる理由があろうとも「払えないなら売れ」です。 https://t.co/51efefcfau
— 黒ひつじくん@マンション管理士 (@TDmU7jdTLqYw9Sp) May 14, 2020
ここまではよかった。
そして口を滑らせた。
私が問題視しているのはマンション管理士としての矜持です。
未収金の雑損失処理は組合員全員の同意が必要で、それは民法上の共有財産の処分にあたるから。
一時的な猶予にしたって理事長にそんな権限は無い
マンションの文化としてそういう事があるのはわかりますが管理士は絶対言ってはいけない。 https://t.co/eBGCdwP963
— 黒ひつじくん@マンション管理士 (@TDmU7jdTLqYw9Sp) May 14, 2020
【未収金の雑損失処理は組合員全員の同意が必要】
それ、本当かい?
正確な情報なのかい?
更に、はるぶー先生に言われて気付いた。
https://twitter.com/haruboo0/status/1260899386105589761?s=20
なぜ私はこんな複雑怪奇な怒り方をしているんだ。
冷静に考えたら意味不明である。
前置きが長くなりましたが罪滅ぼしとして今回は、
「管理組合が管理費等の滞納金(未収金)の支払猶予はできるの?」
「滞納金(未収金)の損金処理って全員の同意が必要なの?」
「管理組合の損金処理の手続きは?」
というテーマでお話ししたいと思います!
管理組合が支払猶予はできる
結論から言うと、「管理組合が」管理費等の支払猶予をすることは可能です。
但し、「管理組合が」です。
件のブログでは理事長さんが支払猶予をした事例が挙げられていましたがこれは明確に誤り。何故か。
標準管理規約第48条(議決事項)
次の各号に掲げる事項については、総会の決議を経なければならない。
三 管理費等及び使用料の額並びに賦課徴収方法
すべての管理組合が標準管理規約準拠ではありませんが、ほとんどの管理組合でこの条文はそのまま入っているのではないでしょうか。
そう、「管理費等の支払猶予」は、この「賦課徴収方法」に含まれるので総会の普通決議が必要です。
だから理事長の一存や理事会決議で猶予したらダメ。
コロナ禍を理由に支払猶予をするべきか
じゃあ、総会決議を経れば可能だから、コロナ禍を理由に支払猶予をするべきか?と訊かれたら…
私の答えは絶対にNO。
「支払えないなら売れ」です。
支払猶予をするべきかについては桃尾先生のブログがわかりやすいのでおすすめ。
はてなブログに投稿しました #はてなブログ
新型コロナを理由とする管理費等滞納への配慮 – 弁護士・マンション管理士 桃尾俊明のブログhttps://t.co/kLJ5xLvYTF— 弁護士 マンション管理士 桃尾俊明 (@momoo_t) May 14, 2020
滞納金(未収金)の損金処理の方法
そして問題の蛇足部分損金処理。
滞納金(未収金)=管理組合の資産なので共有財産の処分にあたり、原則は共有者である組合員全員の承諾が必要となります。
そう、「原則は」です。
この原則を口走ったがためにこの記事を書くハメに…(もういい)
じゃあ例外は?というと、管理費等の財産が組合員全員に総有的に帰属する場合…というとなんのこっちゃかわかりにくいですが、要するに
- 「権利能力なき社団」に該当する管理組合
- 法人化した組合(管理組合法人)
であれば全員の同意は不要で総会の普通決議で損金処理が可能です。
それぞれの手続きについてはこの後解説します。
①団体としての組織をそなえ、
②多数決の原則が行なわれ、
③構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、
④その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているもの
これらを全て満たす団体を言いますが、普通に規約があって毎年総会をやっている管理組合であればほぼ全ての組合がこれに該当します。
何年か前にマンション管理士試験でこの権利能力なき社団についての設問を見たときはこんなん聞いてどないすんねんと思いましたが、こうして考えると権利能力なき社団に該当するかどうかって結構重要なんだなと…
管理組合の損金処理|法人化していない場合
上記の「権利能力なき社団」に該当する場合は、総会決議で損金処理が可能です。
具体的には、
- 「管理費等未収金の損金処理に関する件」として何をいくら処理するのか決議する
- 予算案書の支出の部に「雑損失」として計上する
- 貸借対照表からその分を削除
という流れ。
中堅以上の管理会社が入っていれば間違いなく他の管理組合でやったことあるはずなので、議案書の作成をお願いしたらやってくれるはずです。
管理組合法人の損金処理
管理組合が法人化している場合は、上記の総会決議の方法の他、「滞納引当金処理」も可能です。
私は読んで理解はしましたが会計の専門家ではないので、ご興味ある方はこちらのリンクをご参照ください。
損金処理をする前に
さあ、ここで問題になるのがまたしても「総会決議を経れば可能だからやるべきか」という点。
当然ですが、よっぽどの事情が無い限りはやるべきではありません。
真面目に払ってる人が大多数なわけですから、損金処理をする時は止むを得ない事情があり、完全に回収不能となってしまって、組合員みんなが「まぁしょうがないよね…」としぶしぶでも同意してくれる状況での最終手段と考えてください。
実際に経験したのは、
- 管理規約上、専用使用料は次の所有者に承継されない管理組合で、駐車場使用料を滞納したまま売却され、元の区分所有者が行方不明となった
- 滞納金(未収金)の消滅時効が完成している部分について時効の援用をされた
というようなケース。
滞納金(未収金)は出来る限り回収するようにしてください。
管理組合の滞納金(未収金)の損金処理や支払猶予はできるかまとめ
今回は管理組合の滞納金(未収金)の損金処理、支払猶予ができるかについてお話ししましたがいかがでしたでしょうか。
損金処理は飽くまでも最後の手段。
損金処理をすることにならないよう、滞納金(未収金)が発生したら管理組合として毅然と対応し、すぐに回収するように努めましょう!
というわけで「コロナショックでも支払猶予はダメ、絶対」です!