今回はその火災保険のルール変更についておさらいしようか!
日本中の多くのマンションが入っている火災保険ですが、2021年以前とそれ以降で大きく制度が変わったことはご存じですか?
- マンションを購入するときに自分の部屋の火災保険は契約したけど、管理組合の保険はよくわからない
- マンション共用部分の火災保険の内容を見直すべきってホント?その理由は?
- 管理組合から個人賠償責任保険を外すという案内が来たけど、なぜ今それが必要なの?
という疑問をお持ちの方も多いはず。
そこで今回は、
- マンション管理組合の火災保険とは何か
- 2021年以降本格導入された「事故率」とは何か
- 何故「個人賠償責任保険」を外さないといけないのか
といった点について解説していきます!
マンション管理組合の火災保険とは

分譲マンションを購入した方はご存じかと思いますが、マンションは人が居住する「専有部分」と、廊下やエレベーター等区分所有者全員で共有する「共用部分」に分かれています。
専有部分に関しては住宅ローンの融資条件として加入必須としている金融機関がほとんどだと思いますので、「あぁ、ローン組む時に火災保険に加入したな」という記憶がある方も多いはず。
この火災保険は「専有部分」の保険です。
一方、多くのマンションでは専有部分とは別に共用部分にも保険をかけており、これが今回お話しするマンション管理組合の火災保険です。
【主契約】
- 火災、落雷、破損・爆発
- 風災・雹(ひょう)災・雪災
- 外部からの物体の落下・飛来・衝突など
- 騒じょう・集団行動などに伴う暴力行為など
- 盗難による盗取・損傷・汚損
- 通貨等・預貯金証書の盗難
の補償と、
【その他特約】
- 事故時諸費用
- 失火見舞費用
- 水濡れ原因調査費用
- 個人賠償責任保険(保険会社によって名称の違いあり。三井住友海上は「マンション居住者包括賠償」東京海上は「個人賠償責任補償」、損保ジャパンは「個人賠償責任特約」)
- 施設賠償責任保険(保険会社によって名称の違いあり。三井住友海上は「マンション共用部分賠償」、東京海上は「建物管理賠償責任補償」、損保ジャパンは「施設賠償責任特約」)
and more…
というように、複数の保険をまとめて一つのセットとして構成された商品です。
そのため「火災保険」と言いつつ、実際には火災以外のケースで使うことの方が多く、損保ジャパンは「マンション総合保険」、東京海上は「マンション管理組合のためのすまいの保険」という商品名ですが、個人的にはこれらのネーミングの方が実態に近くてしっくりくるかなと思っています。
尚、個人賠償責任保険(個賠)だけ赤文字にしたのは今回のお話の肝になるのがこの特約だから。このあと説明します。
マンション管理組合の火災保険の制度変更
そんなマンション管理組合の火災保険ですが、2021年前後(保険会社によって若干の違いあり。経過措置も含めると2019年あたりから。詳細は各社発表されているので詳しくはそちらをご確認ください)から、保険料に関して大幅なルール変更があったのはご存じでしょうか。
それまでは、マンション管理組合の火災保険は築年数によって保険料が決まる仕組みで、契約期間中に何度保険金を請求したとしても、次回契約更新の際の保険料にまったく影響がありませんでした。
ところが、いくら保険金を請求しても保険料が上がらないのであれば、保険金は請求すれば請求しただけトクということになってしまい、保険金が無ければ気にも留めないような些細な破損や、本来保険金を請求するべきではないような案件でも片っ端から保険金請求するといった保険金の乱用、モラルハザードの温床となっていました。
そのような状況に歯止めをかけるため、保険金請求回数(事故率)に応じて次回契約更新時の保険料に割引(要するに、保険金請求回数が多いとその分次回の保険料が高くなる仕組み)が適用されるよう制度変更がされたというわけです。
組合が気にも留めていなくても、保険金が使えるならと修繕見積もりのチェックも甘くなる(というか、ほぼノーチェックで通る)ためほぼ確実に受注できる、管理会社にとってはおいしすぎる魔法の「シノギ」だったわけです。
これを、多くの管理会社が毎年のように繰り返していたという実態がありました。
火災保険の制度変更で問題となる保険金請求回数(事故率)
そのようなルール変更により、以前のようにやたらめったら保険金請求していると、あっという間に次回の更新時に保険料が暴騰…という状況となったため、これまでは無かった「事故率のコントロール」という考え方が必要になりました。
保険会社各社のページを見ていただければわかるとおり、対象期間における事故率(事故件数÷戸数)によって保険料の割引率が決まるので、具体的には、
- 事故率が次の料率のテーブル(区分)に乗りそうなら保険金申請を控える
- カウントされるのは「請求金額」ではなく「請求件数」なので、少額のものは保険金請求せず、高額のものだけに保険申請を絞る
といった理事会の判断が重要になったのです。
例えば、東京海上の場合は無事故の区分Aで57%、0.02件以下の区分Bでは50%、以降区分Cで26%、区分Dで13%の割引率、区分Eでは割引無しですから、これを頭に入れた上で保険金を請求するかどうか考える必要があります。
「個人賠償責任保険」とは
前置きが長くなりましたが、ようやく本題の「個人賠償責任保険」の話に入ります。
冒頭で、マンション管理組合の火災保険は複数の保険を組み合わせてセットにした商品だというお話をしましたが、その中でも少し特殊なのがこの個人賠償責任保険。
管理組合の火災保険(=保険料を払うのは管理組合)にも関わらず、「居住者(もしくはその家族)」が賠償責任を負った場合に補償する保険です。
更にこの保険、東京海上のパンフレットを見ると「日常生活で他人にケガをさせたり他人の物を壊してしまったとき」「線路への立入り等により電車等を運行不能にさせてしまったとき」とあるように、マンションと無関係の事故であっても使えてしまう場合があります(※保険会社によって内容が若干違うので必ずご確認ください)。
つまり、本来はその名のとおり「個人」で加入すべきものであり、管理組合で加入するにはそもそもなじまない保険なのです。
何故マンションの火災保険に個人賠償責任保険(個賠)が付いているのか
ではなぜ、本来個人で加入すべき個人賠償責任保険(個賠)に加入している管理組合が多いのかというと、マンションに付き物の漏水事故に対応することができ、2021年前後の制度変更前は、
- 加害住戸の無保険リスク
- 管理会社が代理店として丸ごと対応できる
という理由で、管理組合で入っていた方が有利なケースが多かったから。
どういうことかというと、例えば501号室から下階の401号室に漏水事故が起きたとします。
この場合、本来は501号室と401号室個人間の問題なので、401号室(被害者)は501号室(加害者)に被害を賠償してください、と請求するのが筋です。
そして501号室(加害者)は自腹で被害を弁償するなり、個人賠償責任保険に加入していれば保険金請求をしてそれを弁償に充てるなりするわけです。
これが原則です。
ところが、世の中にはだらしない人というのはいるもので、401号室(被害者)がいくら請求してもなしのつぶてだったり、「すぐやります」と言いつつ半年以上何もやらなかったり、そもそも「保険に入っていないので払えません」と言い出したり。
これでは何の落ち度もない被害者の手間やストレスが膨大となり、正に「泣きっ面に蜂」です。
また、漏水事故が発生した場合、管理会社が入っていれば初期対応から原因調査(水漏れ原因調査費の保険使用)、被害箇所復旧(個人賠償責任保険使用)の見積もりから発注までやってもらうことになりますが、管理会社が代理店であれば管理組合でまとめて保険加入しておけば原因調査や復旧工事だけでなく保険金申請手続きや示談書の取り交わしまで全てまるごと任せてしまえます。
管理会社としても、可哀想な401号室(被害者)と、だらしない501号室(加害者)の板挟みになって501号室(加害者)に早くやってくれとせっつくより、自分でさっさと工事手配から保険金申請、示談書の取り交わしをしてしまった方が遥かにラクなわけです。
こういった理由で、「管理組合で入っていた方がみんなにメリットがあるから」本来管理組合で加入するにはなじまない個人賠償責任保険に多くの組合が入っているのです。
個人賠償責任保険が事故率コントロールの障壁に
しかしながら、前述のとおり2021年前後から保険料算出のルールが変わったため、個人賠償責任保険に入っていると「事故率コントロール」が効かなくなるおそれが出てきました。
「あれ、事故率が次の料率のテーブル(区分)に乗りそうなら保険金申請を控えればいいんじゃなかったの?」
と思われるかもしれませんが、個人賠償責任保険は「居住者(もしくはその家族)」の賠償責任を補償する保険なので、実は管理組合(管理者や理事会)の意向に関わらず居住者が保険金申請できてしまうのです。
そして、たとえ管理組合の意向に反していても、保険会社は保険金請求されてしまったら請求を拒絶できません。
つまり、管理組合(管理者や理事会)は単に本来個人で負担すべき保険料を支払っているだけに止まらず、「そろそろ次の料率のテーブルに乗りそうだからこの辺で保険金申請は控えておこう」と思っていたのに、一居住者が勝手に保険金を申請してしまったがために次の契約更新のときにマンション全体の保険料が大幅に上がり、その値上がり分まで管理費として全員で負担しなければならない、という事態が現実に起こりうるようになったわけです。
「規約規定が有効かどうか」と「それを第三者に対抗できるか」は全く別問題ですから、この問題を完全に解決しようと思ったら管理組合の保険からは個賠を外すしかありません。
個人賠償責任保険は個人で加入するべき
以上を踏まえると、2021年前後からの現行ルールにおいては管理組合の保険から個人賠償責任保険は外すべきというのが私の意見です。
個人賠償責任保険は、原則通り個人で入ればよいのです。
私も入っていますが、保険料は年3,000円弱で大した金額ではありません。
管理組合として組合員・住民に上記の説明を十分にした上で、保険を見直せばよいと思います。
説明に自信が無いという理事会はこの記事をそのまま使っていただいても構いません(商業利用はお控えいただき、常識的な範囲でマンション内での使用にとどめていただければ一向に構いません)。
また、現実的には、いくら個人で加入せよと啓発しても入らない人ばかりで被害者の生活がままならなくなっちゃう…というケースもあるかもしれません(とはいえそんなスラムのような状況なら遅かれ早かれままならなくなるのでは…という気もしますが)。
このあたりの考え方はマンションによって異なるかもしれませんが、重要なのは「区分所有者の多くが理解して納得していること」だと思いますので、どのような結論になるとしても、以前のまま個人賠償責任保険に入りっぱなし、事故率も気にしていなかったという管理組合は一度検討をお勧めします。
マンション管理組合の火災保険|個人賠償責任保険に入らない方が良いってほんと?まとめ
今回はマンション管理組合の火災保険、個人賠償責任保険についてお話してきましたが、いかがでしたでしょうか。
私としては、個人賠償責任保険はマンション管理組合の火災保険から外して個人で入るべきだと思っていますが、マンションごとの事情によっても答えは変わると思います。
重要なのは、どのような結論になったとしても多くの区分所有者が理解して納得していることだと思いますので、保険について考えたことが無い、という管理組合は是非この機会に検討してみてはいかがでしょうか。