久しぶりの記事の更新、ネタが無い…と言い訳しつつ間が空いてしまい申し訳ございません。ネタさえあれば…
そんな折、ツイッターではるぶー先生からネタが投下されました。
https://twitter.com/haruboo0/status/1493788870022144004?s=20&t=mEcA7M8aY5IjR_BGbArXpg
①については現に規約に社名をベタ書きしている管理会社もあるし基本的にはOK、②についてはマンション管理士試験の勉強をしているとき「特別多数決議は区分所有法第十七条の場合を除き決議要件の緩和も厳格化(加重)も不可」と覚えた気がするのでその旨ツイートしたらマンション管理クラスタのみなさまから激しいツッコみが…
私もプロとして不確かな情報の流布はいかん、発言に責任を持たねば、ということで、自戒を込めて「マンションの総会の特別多数決議事項の決議要件の厳格化(加重)はできるか?」について調べましたので、記事にまとめたいと思います。
毎度のご注意となりますが、私は法曹ではありません。
そのため、今回の記事は「この本(弁護士さん)はこう言ってます」という話に留め、私の見解としては「じゃあそれらを踏まえて管理組合(理事会)はどうすべきなの?」という点について最後にお話ししたいと思います。
実際に理事会や総会で問題になりそう…という場合は個別に弁護士さん等にご確認くださいますようお願いいたします。
マンションの総会決議についておさらい
本題の前に一応おさらいです。
区分所有法第三十九条(議事)
集会の議事は、この法律又は規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決する。
マンション標準管理規約第47条2項(総会の会議及び議事)
総会の議事は、出席組合員の議決権の過半数で決する。
区分所有法上、集会(総会)の議事は全区分所有者と議決権の各過半数で可決ですが、標準管理規約では出席組合員の議決権の過半数で可決とされています。
標準管理規約上は総会は半数の出席で成立のため、最小で全体の1/4を超える賛成が得られれば可決できることとなり、区分所有法の規定と比べて要件を緩和しています。
ここまでが原則のお話。
これに対し特別多数決議はというと、区分所有法で区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決すると規定されています(建替え決議は各五分の四、建替え円滑化法の規定もありますが今回は割愛)。
特別多数決議が必要とされているのは、
- 共用部分の変更(第十七条)
- 敷地又は付属施設の変更(第二十一条で第十七条を準用)
- 規約の設定、変更及び廃止(第三十一条)
- 管理組合法人の成立(第四十七条)
- 管理組合法人の解散(第五十五条)
- 専有部分の使用禁止の請求(第五十八条)
- 区分所有権の競売の請求(第五十九条)
- 占有者に対する引渡し請求(第六十条)
- 大規模滅失の場合の復旧(第六十一条)
- 建替え決議(第六十二条※各五分の四)
- 団地管理規約設定についての同意、決議(第六十八条)
- 建替え承認決議(第六十九条)
- 一括建替え決議(第七十条※各五分の四)
で、このうち第十七条の共用部分の変更については区分所有者の定数を規約でその過半数まで減ずることができる、とされていますが、その他は規約で決議要件を緩和することはできません。
特別多数決議の決議要件は厳格化(加重)できるか
前置きが長くなりましたがここで本題へ。
総会の特別多数決議の決議要件が規約で緩和できないのはマンション管理に携わる方であれば常識なわけですが、じゃあ逆に決議要件を厳格化(冒頭で貼ったツイートのように「区分所有者及び議決権の各90%以上で決する」等)は果たして有効なのか。
その謎を解明するため、我々はAmazonの奥地へ文献を漁りに向かった。
コンメンタールマンション区分所有法では
管理オタク必携の一冊、困ったらまずはコンメンタール。危ないフロント系クラスタはコンメも知らないフロントは腹を切れとか
上記①から⑬のうち、規約の設定・変更・廃止に関わる③の定数については、規約によって別段の定めをすることができない。
③以外の事項については、議決要件を厳格化して団体的拘束を緩和する方向で規約によって別段の定めをすることはできるが、議決要件を緩和して団体的拘束を強化する方向で規約によって別段の定めをすることはできない。
整理すると、
- 規約の設定・変更・廃止については規約で決議要件を厳格化(加重)できない。
- その他は規約で決議要件を厳格化(加重)できる。
という説が述べられています。
あれー、どこかで「特別多数決議の決議要件は緩和も厳格化もできない」って勉強した気がするんだけど、勘違いだったのかな…
区分所有法の解説 6訂補遺版では
勘違いなら恥ずかしいなぁ…と冷や汗をかきながら開いたるは区分所有法の解説 6訂補遺版。
特別多数決議の多数決の要件については、規約で別段の定めをすることは、認められないものと考えられます。例外としては、共用部分の変更について、区分所有者の人数の要件を過半数にまで引き下げることが認められています(17条1項ただし書)。規約の設定、変更または廃止(31条1項前段)など、そのほかの特別多数決議の要件は、規約により要件を加重することも緩和することもできないと考えるべきでしょう
つまり、
- 第十七条の例外を除き、規約で決議要件を厳格化(加重)も緩和もできない。
という説が述べられています。よしよしこれで人のせいにできるぞ
区分所有法(法律学講座)では
そしてもう一冊、区分所有法(法律学講座)も読んでみました。
特別多数決議の決議要件の厳格化について直接の言及はありませんでしたが、規約で定めることができる管理又は使用に関する事項は集会(総会)の決議によっても定められる=社会的に見れば同じことの改廃を行うのに決議要件が異なるという問題に絡めて、以下の記述がありました。
管理に関する事項、保存行為も規約で別段の定めをすることも選択できるが(法18条2項)、規約により過重したり、剥奪することは、わが区分所有法では構成員要素が強くなりすぎているので賛成できない。
また規約で、建物の2分の1以下の部分の滅失の場合の復旧での各区分所有者の復旧行為(法61条1項)、災害時の各区分所有者の保存行為を禁止して、その権限を理事長などに集中する動きもあるが(標準管理規約21条6項参照)、賛成できない。復旧行為や共用部分への共有者の保存行為は基本権とでもいえる権利であるからである。
とあり、規約で(区分所有法の原則とは)別段の定めをすることについて慎重な姿勢を示しています。
Twitterで漫感さん(@coolmangkang)から「契約と私的自治の中ではいかなるルールも原則有効、違法無効と言うなら、そのための根拠法令か判例を探す」というご指摘があり、確かになー、と思いました。
現実的に管理組合(理事会)はどうすべきか
以上を踏まえると、「余計な紛争の火種になりそうなので区分所有法の規定通りの決議要件で運用する」のが無難じゃないか、というのが私の考えです。
この件に限った話ではありませんが、安易に規約を弄ると法務に明るい理事がいる間は良いかもしれませんが、その方が退任したら後任の理事や管理会社が手に負えなくなるという可能性は多分にあります。
「その規約は違法無効だ」と主張する人が出てきたときの対応を考えると「法律どおりに運用してます」と答えて終わりにできる方が楽じゃないかな、と思うわけです。
そもそも決議要件を厳格化(加重)する必要はあるのか
冒頭のツイートの趣旨としては、スーパー理事長がせっかく改革に成功したのだから、後退することの無いよう「縛り」をキツくしてしまおう、ということなのですが、これって一歩間違うと某鬼の「私は何も間違えない」みたいな危うさがあると思うんですよね。
改革をした理事長の在職中、もしくは反対の決議があるまでは総会で可決されているわけですからその改革は「正しい」とみなして運用するのはもちろんですが、本来は組合の自治に委ねられているはずものを厳しく制限するのは、私には違和感があります。
その改革が「絶対的に正しい」とするのであれば正しさの定義をしなければなりませんが、単に総会決議を経たことをその拠り所にするのであれば、逆も真なりで反対の決議がされればそれもまた「正しい」ということになるはずで…
みなさんはどう思われますでしょうか。
仮に決議要件を厳格化(加重)が有効だとして
最後に、仮に規約による決議要件の厳格化(加重)が有効だとして、本当に意味があるのか、という点についてお話したいと思います。
上述のコンメンタールが正しいと仮定すると、同書には「規約の設定・変更・廃止に関わる③の定数については、規約によって別段の定めをすることができない」とありますので、「管理者は○○とする」という規約の改廃を区分所有者及び議決権の各90%以上と定めたとしても、「各90%以上」という規約の廃止(変更)は、区分所有者及び議決権の各四分の三で可能となります。
つまり、第1号議案で「管理者規定の改廃は区分所有者及び議決権の各90%以上」と定めた規約の廃止を行ってしまえば(この決議は区分所有者及び議決権の各四分の三で可能)、第2号議案で「管理者に関する定め(「管理者は○○とする」の部分)」の変更・廃止は区分所有者及び議決権の各四分の三でできることとなり、実質機能しないことになります。
マンション総会の特別多数決議の決議要件の厳格化(加重)はできるかまとめ
今回はネタをいただいたのでマンション総会の特別多数決議の決議要件の厳格化ができるかについてまとめましたが、いかがでしょうか。
仮に特別多数決議の決議要件の厳格化(加重)をしたとして、この点の有効性が問題になるときには既に弁護士さんに相談して訴訟も検討…という状況になっている可能性も高いですが、裁判になればそれまでの経緯や諸々の状況も勘案して判断されるはずで、そういった主張や弁明をする労力を考えたら日頃から組合員の反発を招かないよう上手く付き合うのが得策じゃないかな…と私は考えます。
多くの方は完全に無関心とは言わないまでも、マンション管理にそこまでの熱量は無いわけで、余程理事長が嫌いとか理事会が嫌いじゃなければ政権の転覆を狙ったり、弁護士を連れてきて○年前の総会決議は無効だとかやったりしないわけです。
冒頭のツイートはあくまで「ジョーク」ですが、組合員に寝首を搔かれないよう日頃の態度や振る舞いに気を遣うのも安定した理事会運営に必要なスキルだということをお伝えして、今回の記事は締めたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました!