2021年10月21日にダイヤモンドオンラインが公開した「マンションの修繕積立金と管理費を安易に上げてはいけない理由」という記事。
君と俺とでは価値基準が違うというのが私の感想なのですが…
結論から言うと、修繕積立金は絶対に値上げしなければならないし、管理費はしっかり使う決断をしなければなりません。
そのあたりは以前もお話しているのでこちらの記事もぜひ↓↓
で、話を戻しまして、こんな言説がまかり通ってしまうと夢のマイホームを手に入れた区分所有者のみなさまが不利益を被りますので、今回のダイヤモンド・オンラインの「マンションの修繕積立金と管理費を上げてはいけない」という記事がついてどうしておかしいと思うのかについて、1つずつ解説したいと思います。
「修繕積立金と管理費を上げてはいけない」論点整理
まずは問題の記事の主張で、私がおかしいと思う部分を列挙し、そのあと1つずつ解説します。
「おかしい」と一口に言っても色々ありますが、
- 論理的におかしい
- 用語の定義がおかしい
- 道義的におかしい
いずれかに該当していると思うものを以下に列挙します。
- 修繕積立金と管理費の合計で1,000円/㎡はナンセンスな金額
- 修繕積立金単価の初期設定が低いという問題が「このままだと修繕積立金が足りなくなるという話にすり替えられる」
- 入居者で構成する管理組合ではひともんちゃくすることになる
- 値上げを避ける方法の一つは大規模修繕前に引っ越してしまうことだ
- なぜ集合住宅だけ大規模修繕をやれと言うのだろう
- 優先順位をつけて実施すれば良いのだ
- 「大規模修繕」を行ったがゆえの事故も明らかにこれ以上に多い
- 管理会社が不採算なので、管理費の値上げ提案をすると、かなりの確率でリプレースが行われる
- 管理費を変えずにサービスレベルを下げることを検討したほうが良い
- 月2万円負担が増えると、そのマンションの資産価値は下がる
- 年収は一定なので、支払いが増えれば買える人が少なくなるだけだ
- 必要最低限のものに絞り込んだマンションの資産価値が最も維持されることになる
一通り列挙しました。
ほぼ全編おかしいです。
では、解説いきます!
①修繕積立金と管理費の合計で1,000円/㎡はナンセンス?
いきなり根拠が不明なのでコメントしづらいんですが…
順番が逆ですよね。
みなさん新築マンションを買う時って、まずはチラシや物件パンフレットを見て、興味を持ったらモデルルームに行ったり、竣工済みなら現地を見て「このマンションのスペックは素晴らしい!!」と思って買うわけですよね。
で、修繕積立金と管理費というのはそのマンションのスペックを維持するのに最低限必要な金額を設定しているわけです(修繕積立金は多くの場合初期は安いですが期が進むにつれ増額したり一時金を徴収する計画で辻褄が合わせてあります)。
なので、「修繕積立金と管理費が高いからナンセンス」という主張の方がナンセンスで、必要だからその金額設定になっているのだから、高いのがナンセンスだと思うのであれば最初から維持コストのかからないロースペックのマンションを買うか、余計な共用施設の付いていない賃貸に住めば良いのです。
②修繕積立金が足りなくなるという話にすり替えられる
話が売主と管理組合の区別が付いておらずごちゃまぜになっています。
「修繕積立金徴収額の初期設定が安い」というのは売主の問題。
対して、
「修繕積立金が足りなくなる(から値上げしよう)」というのは管理組合の問題。
そもそも立場が違うのであって、誰も「すり替え」なんてしていませんよね。
売主は初期設定が安い方が売りやすいから安く設定し、管理組合は区分所有者(=所有者責任を負う)の団体として修繕積立金が不足したら困るから適正化(値上げ)をするのであり、それ以上でもそれ以下でもありません。
③入居者で構成する管理組合ではひともんちゃくすることになる
管理組合を構成するのは「入居者」ではなく「区分所有者」です(外部の管理者を立てる場合もあるけれど)。
後半で「所有者責任の問題を価値観の問題にすり替えている」という指摘をしますが、全編を通して所有者として、市民としての責任に対する認識が甘い(寧ろ積極的に放棄している)と感じます。
それら責任を認識できていれば「入居者」と「区分所有者」を間違えることなどありえないと思います。
④値上げを避ける方法の一つは大規模修繕前に引っ越してしまうことだ
???
もはや理解不能です。
過去の最高裁での判決では、「外壁が剥落して通行人の上に落下」して通行人等が死傷した場合、落下した建物の所有者等が全面的に賠償責任を負うという判決が下った。つまり、建物の外壁落下は所有者の責任で絶対に防ぐことが社会の要請となっている。
実際、神奈川県逗子市で2020年2月、市道に面するマンション敷地内の斜面が崩落し、歩いていた女子高校生が死亡する事故があった。女子高校生の遺族が、このマンションの区分所有者と管理会社、管理人に対し、安全対策を怠っていたとして、損害賠償を求めただけでなく、マンション管理会社の代表を業務上過失致死の疑いで、マンションの区分所有者を過失致死の疑いで神奈川県に刑事告訴している。
また、マンションに限った話ではないが、外壁タイルなど部材の落下事故による被害者は、19年度10人(うち死亡1人)となっており(国土交通省『建築物事故の概要』)、定期的な安全性の検査は欠かせない。
「大規模修繕の前に引っ越してしまえば良い」という話をしてからのこの流れ。
引っ越して(これも厳密には誤りで、正しくは「売却して」)しまえば自分には責任が及ばないかもしれませんが、修繕積立金も管理費も不足して適切な管理が困難となったマンションはそこに残り続けます。
自分に所有者責任が及ばなければ事故で人が亡くなっても構わないということでしょうか。私には到底理解できない価値観です。
⑤なぜ集合住宅だけ大規模修繕をやれと言うのだろう
戸建てだったら修繕しなくても永久に劣化しないのでしょうか。
そんなわけないですよね。
恐らく、「何故まとめて一斉に工事する必要があるのだ」ということが言いたいのだと思いますが、まとめてやらないのなら
誰が工事時期や工程考えて工事会社や区分所有者と調整するのでしょうか。
専有部分を通らなければ入れないバルコニーの工事も必要ですが、工期をずらしていちいち足場組むつもりでしょうか。
余計労力もコストもかかりますが、でも修繕積立金・管理費の値上げには反対(責任も放棄してカネも払いたくない)でしたよね。
どうするつもりなのでしょうか。
例えば、「他の階に比べて4階は綺麗だから塗装もシートの張替えも今回は見送って12年後にしましょう」と言ったら4階の人達も同じように修繕積立金を払っているわけで、当然反発されますよね。
この後指摘しますが、そもそも「4階が綺麗だから先送り」等という優先順位を付ける作業は誰がやるのかという問題があります。
理事会(マンションによっては専門委員会も)が検討することになりますが、この記事の主張では「大規模修繕工事の前に売り抜ければ良い」なわけですから、自分がその負担に任じるつもりは無いですよね。
理事会だけでできないならば外部の専門家を雇って検討する必要がありますが、その専門家を雇う費用(=管理費)も払いたくないというのがこの記事の主張。
誰かにやってもらって自分だけが甘い汁を啜ればよいという価値観がここでも垣間見えます。
⑥優先順位をつけて実施すれば良いのだ
先ほども指摘しましたが、優先順位を判断するにあたって負担に任じるつもりはないし(工事の前に売って出ていくと言っているのだから当然そうなる)、にもかかわらず「管理費は上げるな」という主張。
誰が優先順位付けるのでしょうか。
まさか他の組合員に責任押し付けてタダ働きしろと言うつもりでしょうか。
所有者として、市民としてあまりにも無責任ではないでしょうか。
⑦「大規模修繕」を行ったがゆえの事故も明らかにこれ以上に多い
もしかして交通事故が起きるからこの世から自動車は駆逐するべきだと主張するタイプですかね。
私は何事もリスクだけではなくメリットも勘案するのが合理的な判断だと思うのですが、そうではないという価値観もあるのだなと思いました。
⑧管理会社が不採算なので、管理費の値上げ提案をすると、かなりの確率でリプレースが行われる
主張が支離滅裂です。
この記事の主張は、
- 管理費は値上げするな
- 必要最低限に絞り込むべきだ
であるはず。
安ければ良いなら管理会社リプレイスしても(この記事の主張に立つならば)何も困らないはずなので、何が言いたいのか理解できませんし、そもそも「かなりの確率でリプレースが行われる」というのは何を根拠にそんなことが言えるのか不明です。
更に言えば、「管理会社が不採算なので」「管理費の値上げを提案する」というのも論理的におかしい。
管理会社が不採算なのであれば提案されるのは「管理委託費の値上げ」であり、「管理費の値上げ」を提案したところで管理会社が不採算という問題とは全く関係ありません。
前提がおかしいのだから、結論の「リプレースが行われる」というのも「かなりの確率で」おかしいのではないでしょうか。
⑨管理費を変えずにサービスレベルを下げることを検討したほうが良い
冒頭で「問題をすり替えている」などと主張しておきながら、自分は堂々と所有者責任の話から資産価値や個人の価値観の話にすり替えるのはおかしいのではないでしょうか。
前のページでは所有者責任が問われた事例の話をしていましたが、ご指摘のとおり、修繕積立金や管理費は所有者としての責任を果たすためにも必要だから徴収して維持修繕に充てるわけです。
それが何故資産価値の問題に話がすり替わっているのでしょうか。
⑩月2万円負担が増えると、そのマンションの資産価値は下がる
この記事では「資産価値」という言葉の定義が明示的に示されていないのですが、話の流れから推測すると「売却価格」を指しているものと思われます。
確かに、投資用ワンルームマンションであれば賃料から管理費等の支出を差し引いた利回りをみて値付けがされますが(レインズを見ると利回り計算に基づく銀行評価額±数十万~百万円くらいの物件が多数掲載されています)、実需ファミリーマンションの売買ではそういった考え方は馴染まないのではないでしょうか。
皆さんは自分が住むマンションを購入する際に利回り計算しましたか?
たぶんしてないと思うんですよね。
そして、この記事では高く売り抜けることを前提にしていますが、そのマンションに長く住み続ける、責任を持って維持管理していこうと考えている人も多くいらっしゃるわけです。
そういった方もいるなかで、自分だけが得をすればそれで良い、後のことは他人に押し付ければ良い、彼らが享受できるサービスレベルを下げれば良いというのはあまりにも人を馬鹿にした主張ではないかと思います。
住まいを利用した「ババ抜き」に他人を巻き込むべきではないと私は考えます。
⑪年収は一定なので、支払いが増えれば買える人が少なくなるだけだ
類は友を呼ぶという言葉がありますが、修繕積立金や管理費が足りない(徴収額が低額)ということは、この記事で主張されているような価値観の人が好んで購入するということでもあります。
逆に言えば、所有者としての責任をきちんと果たし、自分達の資産であるマンションを適切に維持管理し、長く住まいたいと考えているのであれば、修繕積立金や管理費を適正額に設定する、場合によっては値上げするというのは、彼らのような価値観の買主を寄せ付けないためにも必要な対策ではないかと思います。
⑫必要最低限のものに絞り込んだマンションの資産価値が最も維持されることになる
であれば、冒頭で申し上げたとおり、ロースペックなマンションを購入するか、余計な設備が無い賃貸住宅に住むなりすればよろしいのではないでしょうか、というのが私の意見ですが、いかがでしょうか。
マンションの修繕積立金と管理費を安易に上げてはいけない?まとめ
今回はダイヤモンド・オンラインの「マンションの修繕積立金と管理費を安易に上げてはいけない理由」という記事に関する意見を書きましたが、いかがでしょうか。
基本的に主義主張や思想信条は自由で良いと思っているのですが、国も認定制度を作るなど、マンション管理を適正化していく機運が高まっているなかで、そして責任を持って適切なマンション管理を行うべく奮闘している管理組合もあるなかで、あまりにも無責任な記事だと感じました。
マンションの修繕積立金と管理費について、皆様はどう思われましたでしょうか。