分譲マンションを購入すると毎月支払うことになる修繕積立金。
総会の議案書で修繕積立金の値上げの議題が上がって、困った経験のある方もいるのではないでしょうか。
「修繕積立金を値上げするみたいだけど、本当に必要なの?」
「修繕積立金の相場っていくらくらいなの?」
「値上げの決議に反対したいのだけど…」
そんな疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、
- 修繕積立金の値上げは必要か
- 修繕積立金の相場
- 修繕積立金値上げの反対意見
についてお話ししたいと思います!
修繕積立金の値上げは必要?
修繕積立金の値上げに反対したくて、何とか理事会や管理会社に対抗するべく相場を調べようとこの記事にアクセスしていただいた皆様に嬉しいお知らせです!
修繕積立金は…
絶対に値上げが必要です。笑
何故か。
それは、分譲時の修繕積立金の金額が異常に安く設定されているから。
修繕積立金が安く設定される主な理由は次の2つ。
①修繕積立金・管理費・ローン返済の総額で買えるか判断するから

すでにマンションを購入した経験のある方や、モデルルームに遊びに行った経験のある方はお分かりいただけるかと思いますが、マンションを購入する前に不動産会社の営業さんが資金計画表を作ってくれるはずです。
月々のローン返済額がいくらで、管理費・修繕積立金がいくらで、後は親切な営業さんだと固定資産税はだいたいこれくらいで…とか。
この金額を見て、
「あ、今の家賃とあんまり変わらないから買っても大丈夫そうだな」
とか判断するわけです。
一部のマンションヲタクを除き、善良な一般市民は月々の支払総額で買えるかどうか判断しますが、売主としてはできるだけ販売価格(=ローン返済額)を上げたいので、その他の管理費や修繕積立金はできる限り低く設定したい。
じゃあ管理費を下げるか修繕積立金を下げるかという話になるのですが、管理費は経常的な支出に充てるのでこれが不足するとすぐに問題が表面化しますし、何より子会社である管理会社の管理委託費はここから出ているのでショートさせるわけにはいかない。
で、消去法で修繕積立金を低く設定してしまえとなるわけです。
モデルルームでお客さんにツッコまれてもどこかの政治家よろしく
「ただちに影響はございません」
とでも言って逃げておけば良いわけです。
②営業マンが説明できない

モデルルームに行くとビシッと髪をセットし、よさげなスーツを着たいかにもデキる風の営業マンがスマートに接客してくれますが、彼らの大半はマンションの事なんかほとんどわかっちゃいません。
私も先日、野〇不動産のモデルルームに行ってきましたが、修繕積立金や長期修繕計画書について質問したら怖いおじちゃんが裏から出てきて、
「ざっくりと説明しますね!このマンションは3つの棟と商業施設で構成されていて…」
とか思いっきり論点を逸らされ、いやそれはわかってるんですけど規約(案)ではこうなっているのに何で…とかさらに追及すると
「まだ案の段階ですから!管理組合がスタートしてから管理会社が説明しますから!」
とか。買ってからじゃどうにもならんでしょうに。
こんな知識レベルの人たちに修繕積立金の必要性が説明できるわけもなく、高けりゃツッコまれるけど安い分には文句を言う人は少ないので、とにかく安く設定しておいた方が売主側からすると都合が良いわけです。
修繕積立金値上げの相場は?
で、ここまでの話を整理すると、修繕積立金は値上げが必要というよりも、総会で決議して適正額に戻さなければならないんです。
要は、売主が設定した元々の金額が不当に安い。
じゃあ相場はどのくらい必要なのかというと、国交省のマンションの修繕積立金に関するガイドラインに平均値が示されていて、ざっくり言うと専有面積1㎡あたり200円ちょっとが目安だよということが書かれてます。
マンションの修繕積立金に関するガイドラインは2021年9月に更新され、20階未満・延床面積5,000㎡未満のマンションの平均値で335円/㎡という値が示されました。
詳しくはこちらをご参照ください。
70㎡の住戸なら、70㎡×200円で月額14,000円くらい。
※2021年9月改定後の値で計算すると、70㎡×335円で月額23,450円。
但しこれは飽くまでも目安で、機械式駐車場が設置されていたり、プールや噴水等の豪華な共用設備があったり、世帯数が少なかったりすると更に修繕積立金が必要になるので、ガイドラインの金額は相場というよりも最低限必要なラインというくらいに考えてください。
尚、湾岸タワマンの修繕積立金の相場については、はるぶー先生が詳しく話してくださっています。
やや玄人向けですがかなり面白いのでお好きな方はぜひ☆
長期修繕計画書をみて判断する

国交省のガイドラインで相場がこれくらいなのでとりあえず㎡単価300円くらいまで上げましょう、でも良いのですが、これだと根拠として弱く、総会で反対意見が出た時に切り返しが難しい。
なので、ガイドラインの相場に合わせるというのは、最終手段にした方がよいです。
「さすがに月○万円上げるのは皆さん無理ですよね?とりあえずガイドラインで相場とされてる㎡単価300円くらいまでは上げときましょうね!」みたいな使い方。
こういったケースを除き(というかこうなる前に)、管理会社や設計事務所にお願いして長期修繕計画書を作成してもらい、次の大きな支出がある時に不足しないためにはいくら必要か、というところから逆算して改定案を作ってみてください。
例えば、総専有面積7,000㎡のマンションで、今の金額で積み立てていくと5年(60ヶ月)後の大規模修繕工事の時に3,000万円不足しそうという場合、
3,000万円÷60ヶ月=50万円/月
50万円÷7,000㎡=71.42円
⇒切り上げて72円/㎡値上げが必要
というような考え方です!
修繕積立金値上げの決議方法

原則として、修繕積立金の値上げは総会の普通決議で決議が可能です。
区分所有法第三十九条
集会の議事は、この法律又は規約に別段の定めがない限り、区分所有者及び議決権の各過半数で決する。
標準管理規約第47条2項
総会の議事は、出席組合員の議決権の過半数で決する。
標準管理規約どおり、「管理費等の額については、各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出する」とされていたり、「管理費等の額は別に定める」のように記載されている場合は、規約改定に該当せず、出席組合員の議決権の過半数で決議することができると考えられます。
ところが、マンションによっては、修繕積立金の金額が管理規約の別表にベタ書きされているケースがあります。
規約の本文に、「管理費等の額は別表第○の通りとする」のように記載され、別表が規約の一部とみなされる場合、管理規約の変更に該当するため区分所有者及び議決権の各四分の三以上の特別多数決議が必要と考えられます。
区分所有法第三十一条
規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
本来普通決議で決議可能な案件が、ただ規約の別表に書かれているだけで特別多数決議が必要というのも矛盾しているような…
ただ、過去の判例では規約別表に金額がベタ書きされていたとしても普通決議で値上げの決議が可能との判例も出ていたりします。
修繕積立金値上げ反対意見は正しい?
将来のために修繕積立金の値上げが必要、自分のマンションが相場より安い金額に設定されている…とはわかっていても、どうしても納得できない人もいます。
また、【終の棲家】というつもりで購入した方が多いマンションなら大事な我が家を守るために貯金しようという意識が働きますが、反対に投資用として所有していたり短期売却を狙っている人からすると修繕積立金が足りなくなろうが知ったこっちゃない、問題が表面化する前にさっさと売り抜いてしまえという意識が働きなかなか合意形成が難しくなります。
皆さん色々な事情があると思いますが、その中でも特にメジャーな反対意見をいくつか挙げてみます。
値上げ反対意見① 管理会社に騙されている

よくあるのが、【理事会は管理会社に騙されている】という意見。
「管理会社が修繕積立金を使って工事をしたいから値上げをするように仕向けているんだ!」という主張です。
まあ半分正解なんですが(笑)
でもね、残念ながら管理会社にそういった都合があるからといって、管理組合が修繕積立金を積み立てておかなくてよいという事にはならないんですよね。
それに、いざ工事をする時にその見積額が高いか安いか、今必要か不要か、管理会社に発注するのか否かを判断するのは、修繕積立金の値上げの決議とはまた別問題です。
値上げ反対意見② 足りなかったら借入をすれば良い

借入について否定はしませんが、最初から借入ありきで計画するのはナンセンスだと思います。
最初から必要なのがわかっているのにわざわざ無駄に利息を支払う理由がない。
にも関わらず借入すればよいというのは、先に申し上げたように【ヤバくなったら売り抜いて逃げてしまえ、修繕積立金が足りなくなろうが知ったこっちゃない】という向きの方では…
ちなみに、どんな管理組合でもローンが組めるかというとそうではなく、当然ですが審査があります。
例えば、住宅金融支援機構のマンション共用部分リフォーム融資のご利用条件を見るとこんな感じ。
- 修繕積立金は1年以上定期的に積み立てられており、滞納割合が10%以内であること。
- 毎月の返済額が毎月徴収する修繕積立金の額の80%以内になること
⇒つまり、あまりにも修繕積立金が安すぎると借入もできないという状況に陥りかねません。
いずれにしても借入ありきの計画だと将来に負担を先延ばししているだけですし、一度は借入で工事費を賄えたとしても、次の大規模修繕工事に向けてローンを返済しながら修繕積立金を積み立てるのはものすごく負担が重くなります。
また、修繕積立金が値上がりする前に売り抜いてしまえば良いという方もいますが、最近では中古マンションを評価する時に修繕積立金の積み立て状況をチェックする人が増えてきています。
今はまだ売り抜いて【ババを引かせる】ことができるかもしれませんが、何年かしたら修繕積立金が足りないマンションは市場で評価されなくなりババを引かせることが難しくなるかも…
値上げ反対意見③ 管理費の支出を削減すれば足りる

よくあるのが、「管理会社に払いすぎてるからだ!」とか、「削れる支出があるはずだ!」
みたいな意見で、要は【管理費を削ってその分を修繕積立金に充てろ】という主張ですが、これもナンセンス。
管理費は今現在の管理レベルを維持するためのもの、修繕積立金は将来のマンションの維持修繕のためのもので目的が全く違います。
…とはいっても、家計簿感覚が染みついてしまっている方々に理解してもらうのは難しいのが現実。
総会で修繕積立金の値上げを決議する前に管理費会計の支出削減もやっておくと、このような反対意見が出てもスムーズに潰す対応することが可能です。
- エレベーター保守→メーカー系から独立系に変えると保守料はざっくり3~4割くらい下がります。但し相応のリスクはあるのでよく検討しましょう。
- 機械式駐車場保守→年間4回(3ヶ月に1回)までなら回数を減らせます。国のガイドラインで年4回はやってくださいと言われているので4回未満で受けてくれる保守会社はおそらくありませんし、点検でスプロケット等にグリス注入しておかないと故障の原因になるので逆に高くつきます。
- 防犯カメラリース料→即解約は違約金が発生するので満了時期を見計らった方が良いですが、防犯カメラに関しては基本的に【大手は高い】です。
- インターネット利用料→組合一括加入タイプの場合、インターネット会社側の減価償却が終わって入れば長期契約を条件に値下げしてくれたりします。要交渉。
- ケーブルテレビ→アンテナに変えるとランニングコストは削減できます。但しブースター等も含めた全設備が組合の保守範囲になるため故障時は全て組合負担に。現状がス〇パーJSATとかだと月額利用料が高いのでだいぶ削減できるかも。
あんまり書くと解体されてジンギスカンにされそう…
修繕積立金の値上げをするメリット

値上げというとどうしてもネガティブなイメージが付いて回るので決議する際に反対されやすいのですが、修繕積立金を値上げすると将来の工事費用を確保できるだけではなくマンションの品格を保つことができるというメリットもあります。
これが意外と重要で、冒頭でお話しした通り、修繕積立金の月額が高ければそれだけ経済的に余裕がある人でなければ買えなくなるので、中古で購入する人も元々の居住者と同じくらいの属性の人たちが購入することになります。
反対に修繕積立金の月額が安ければより収入の低い人も購入できるため、次第に居住者間で属性にバラつきが出てきますが、これがバラついてるということはマンション内で価値観や常識、金銭感覚が異なる方が一つ屋根の下で生活し、同じ組合員として活動することになりまして…
これ、思ってる以上にストレス溜まりますよ。
別にカネ持ってる人が偉いなんて言うつもりはありませんが、年収500万円違ったらマジで話かみ合いません。
こうなってくると理事会や総会をやるたびに揉めたり、合意形成が難しくなってくるので、築年数や物件価格の下落に応じて修繕積立金を値上げする、なんて考え方もアリなのではないかと思います。
一言で言うと、修繕積立金が安いと元々の居住者から見ておかしな人やあまりよろしくない人達が入ってきやすくなります。
修繕積立金の値上げの相場まとめ
今回は修繕積立金の値上げや相場についてお話ししましたが、いかがでしたでしょうか。
月々の支出が増えるのはちょっと…という方も多く、決議をしようにも反対する方も多いかと思いますが、将来的に必ず必要になるお金ですし、先延ばしにすればするほど負担は重くなります。
まずは自分のマンションの修繕積立金や相場を正しく理解し、前向きに値上げを検討してみてください!