2019年10月17日の日経新聞で「マンションクライシス㊤」という記事が掲載され、読まれた方も多いかと思います。
内容としてはマンション管理組合運営に係るものが主で、
「管理会社が修繕金を使い込んでいた」
「管理委託費の値上げを拒絶したところ、管理会社に契約を切られた」
仕舞には、
「都市部に廃墟マンションが林立する未来は絵空事ではない」
とまで。
最近流行りの「廃墟」の文字も踊る紙面を見て、心配になった方も多いはず。
そこで今回は、日経新聞のマンションクライシスで取り上げられた問題の、「ぶっちゃけどうなの?」という部分についてお話ししたいと思います!
日経新聞マンションクライシスの感想
私自身、記事を読んでみての感想としては次の2つ。
①用語は正しく使ってほしい
知り合いや友人との会話レベルならば、伝わりさえすれば良いので細かいことは言いませんが、新聞という公共性の高い媒体なわけですから、文字数の制約はあれど用語は正確に使ってほしい。
読んでいて、【管理費】【管理委託費】【修繕積立金】【修繕金】【積立金】がごちゃまぜになっているなぁと…
また、【管理費】【管理委託費】【修繕積立金】は一般的な用語として使いますが、【積立金】は会話レベルならまだしも【修繕金】という表現は聞いたことがありません。
細かい話かもしれませんが、ここの区別が付かないと理事会や総会等の現場で話が噛み合わなくなるので、結構重要です。
②ちょっと論理が飛躍してるような…
後程お話ししますが、
「管理委託費を20万円超にと提示された。今後も積立金を確保するには値上げは無理で、管理会社を代えた」
マンション管理に携わる人間からすると論理がメチャクチャ。これについては後述します。
また、こちらも後でお話ししますが、
「都市部に廃墟マンションが林立する未来は絵空事ではない」
そんなバナナ。
まぁ地方ならわかりますが、都市部にまで一般化するのはどうかと…
というわけで、問題提起としては良いけど不安を煽る方向で書きすぎじゃないかなー、というのが私の感想。次!
次は記事で書かれていた各事例について解説していきます!
管理会社による修繕積立金使い込み
ざっくり記事の概要をまとめると、
「気づいたら修繕積立金が1,000万円近く管理会社に使い込まれていたので、管理会社を解約し、防水工事に必要な資金の不足分は借入で賄い、管理組合で督促も行って管理費等の滞納も解決した」
ということのようです。
実は私もこれによく似た事例に関わったことがあります。
まぁ、使い込んでいたのは管理会社ではなく理事長だったのですが…
詳細はこちらでお話ししましたのでご興味のある方は読んでみてください↓↓
で、この管理会社による使い込みを防ぐための具体的な方策が3つあるので、ご紹介したいと思います。
①理事会活動をきちんと行う
本当に初歩の初歩ですが、億劫でもめんどくさくても2ヶ月に一度くらいは理事会を開催しましょう。
そして、理事会の度に管理会社に【月次収支報告書】を提出してもらい、理事会役員全員で確認するようにしてください。
また、年に一度の通常総会の前には残高証明書のチェックを行いましょう。
これをやるだけでもだいぶ不正に対する牽制になります。
不正を働く側は相手を見てやりますので、組合にチェック機能が無いマンションは是非検討してください。
②監事による監査を徹底する
総会で役員の役職を決める時、じゃんけんやあみだクジで監事を決めているマンションも多いですが、監事はきちんと監査ができる人を選任するようにしましょう。
これも①と同じく、管理組合の中に監査ができる人がいない場合は外部の専門家に委託することをお勧めします。
また、素人でもできる監査の方法を以下の記事で説明していますので、ぜひご一読ください↓↓
③大手管理会社に委託する
①も②もやって、それでも管理会社に修繕積立金を使い込まれないか心配だ、という方向けですが…
それでも心配なら、名の知れた大手管理会社に管理を委託しましょう。
具体的には、管理戸数ランキングで30位以内くらいまでに入っている管理会社が良いです。
これは、大手なら横領等の不正をしないという意味ではなく、
- 大手でも不正は起きるが社内監査等のチェック機能が働いて発見されやすい
- 横領等の不正が発覚した場合は、ほぼ確実に全額返金してくれる
という意味です。
繰り返しますが、大手でも不正は起きます。
不正が発生した時にリカバリーできる可能性が【若干】高い、というだけのお話しですので、まずはきちんと理事会活動、監事による監査行うようにしてください。
管理会社からの契約打ち切り
一昔前なら考えられませんでしたが、管理会社からの契約打ち切りはかなり増えています。
一時期、管理業界全体で管理戸数を競って採算度外視のリプレイス営業が繰り返されたことと、一部のマンション管理士がメシの種に管理会社リプレイス提案を繰り返したツケがここ数年で爆発したのが原因。
某財閥系管理会社の場合、ある日突然フロントさんから理事長に電話が掛かってきてお話しが…と言われ、上司を伴ってやってきて【管理委託契約終了の申入れ】をされるとか…
じゃあ、どこでも管理会社に切られるかというとそうでは無くて、危険なのはこんなマンション。
- 分譲当時から、途中で管理会社を変えている
- 事務管理業務費(管理手数料含む)が戸当たり月額1,200円を切っている
- 管理員人件費の増額に応じない
- 設備管理業務が管理委託契約から外され、管理組合との直接契約になっている
- 工事を提案されても発注しない、決められない
- 業務に対するクレームが多い(契約以上のサービスを求める人がいる)
要するに、儲からない上に手間がかかるお客さんはお断りしよう、という話です。
もちろんどれか一つに当てはまったら切られるという話ではなく、各管理会社の事情に応じて総合的に判断されます。
お金が絡む話なのである程度の交渉は必要ですが、あまりにも理不尽・過剰な要求をしていないかは気を付けておいた方が良いと思います。
これ言ったの、フロントさんではなく管理職です。
一時期の「言えばなんでもやってくれる」時代とは状況がかなり変わっているので注意が必要なのは間違いありません。
管理人(管理員)の不足、値上げ要求
元記事では「管理人」という表現が使われていますが、業界として正しくは【管理員】なので、この記事では【管理員】で統一します。
結論から申し上げると、管理員の成り手不足はかなり深刻。
管理員に対してまるで上司と部下のような接し方をしている年配の方を時々お見掛けしますが、マナー云々抜きにしてもやめた方が良い。
「俺たちの時代は…」は残念ながら令和の時代では通用しません。
管理会社にとっては、管理受託マンションは替えがきいても管理員・清掃員は替えがきかないというくらい深刻な状況です。
一昔前だったら、管理員にクレームが付くと「申し訳ございません、管理員を交代させます…」となってましたが、今は下手をすると「申し訳ございませんでした」と一言添えて解約通知が出てくるなんてことが本当に起こってます。
明らかに清掃をサボっているとき等に改善要求をするのは当然ですが、行き過ぎた要求は禁物です。
また、最近増えている管理員業務費の値上げ(元記事では「管理費の値上げ」とか意味不明な書き方になってますが)の要求ですが、これもある意味当たり前で、
- 成り手不足による募集コストの増大
- 賃金の上昇
- 社会保険料の増大(2016年10月以降、週20時間以上で加入対象)
により現行契約では採算の合わないマンションが多発しています。
首都圏での管理員さんの時給は1,000円程度ですので、勤務時間や待遇にもよりますが【管理員業務費】が時給から計算した管理員さんの給与の2倍くらいであれば適正価格というか、許容範囲内だと思います(賞与とか特別手当出していると給与と同じくらい「隠れたコスト」が掛かっていて、管理員業務費が管理員さんの給与の倍以上になってしまうマンションもあります)。
放っておくと優秀な管理員さんを失う等、リスクが大きいです。
管理委託費と修繕積立金の確保は別問題
今回の日経新聞マンションクライシスの記事の中で最も気になったのがここ。
「大手管理会社から月13万円の管理委託費を20万円超にと提示された。今後も積立金を確保するには値上げは無理で、管理会社を代えた」
ツッコみどころがいくつかあるので列挙しますね。
- 仮に管理開始から20年以上経っていて初めての値上げ要求だったり、採算度外視のリプレイス物件ならば月13万円→月20万円への値上げも不思議ではない
- 管理委託費の話をしていたのに何故突然積立金の話になるのか
- 積立金(修繕積立金)は、管理委託費(管理費会計から支出)とは無関係
- 管理会社を代えた←は?
ここで特に強調しておきたいのは【修繕積立金と管理委託費の値上げは無関係】であるということ。
どういうことかというと、管理委託費の出どころとなる【管理費】というのは日常の維持管理に使用するお金で、例えば清掃だったりコンシェルジュサービスだったりと居住者の満足感に直結するので、安ければ良いというものではありません。
この点についてははるぶー先生の記事で非常にわかりやすく書かれています。
これに対し、【修繕積立金】は将来的な計画修繕に使うための貯金です。
十分な金額を確保するのに足りないというのなら、管理費(管理委託費)の支出とは別問題として修繕積立金の値上げを検討してください。
マンションを購入する方の多くはより生活のクオリティを上げたいと思って購入しているはずですので、この区別が付かずに管理費(管理委託費)を削減すると何のために高い買い物をしたのかわからないという本末転倒な状況に陥ってしまいます。
…いやいや、飽くまでも想像のお話しですよ?
都市部に廃墟マンションは林立するか
たぶんしないでしょうし、都市部で廃墟マンションが林立するようならその時はマンションだけじゃなくて日本が終わってるでしょ。笑
管理組合の機能不全を煽りたいのでしょうが、街のイメージ作りでメシ食ってる電鉄系・財閥系企業が廃墟になりゆくマンション群をただ指くわえて眺めているだけなんて到底思えません。
よって、【都市部に廃墟マンションが林立する】という結論は誤り。
廃墟になる前に【決められる管理組合】になろう
多くの管理組合が陥っている二大疾病として、【1円も払いたくない病】の他に【いつまでも決められない病】があります。
- 管理会社から修繕積立金の値上げを提案されても【決められない】
- 本当に必要な工事も【決められない】
- 役員の選任ルールや報酬の支給、協力金の徴収も【決められない】
- 管理費等滞納者に対する法的措置も【決められない】
- 基地局を設置することも【決められない】
今は先延ばししているから問題が表面化しないかもしれませんが、これ続けてると本当に廃墟になりかねません。
なにも変わらないんじゃ理事会だってやりがいがないのでどんどん人が離れていきます。
分譲マンションにおいて【決められない】は非常に重大なリスクです。
- 反対者がいる場合はできる限り理解を得る努力をし、それでもダメなら反対者がいても管理規約の可決要件を満たしていればきちんと実行する
- 反対者がいても安易に議案を取り下げない
- 総会の委任状、議決権行使書は【区分所有者全員が出す(参加する)べきもの】というクセを付ける
こういったところは普段から気を付けるようにしてください。
日経新聞マンションクライシスまとめ
今回は日経新聞マンションクライシス~修繕費が不足して廃墟が林立するってホント?ということで解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
まぁ完全に的外れではないのだけど、この手の大衆の不安を煽って部数を伸ばす手法ってどうなんだろうな~。
日経新聞が大衆向け雑誌と同じようなことやっちゃう?という気がしないでも…
物事なんでもそうですが、ネガティブな面を見るよりポジティブに考えた方が建設的ですので、マンションをお持ちの皆様は是非ポジティブにマンション管理を楽しんでいきましょう♪