マンションの管理組合に関する記事や書籍を読んでいると度々出てくる「合意形成」というコトバ。
その「正体」について考えたことはありますでしょうか。
「管理組合で合意形成がうまくいかない…」
「マンションで説明会を開催したのに合意形成ができなかった…」
「理事会の段階で反対意見が多く出て合意形成どころじゃなかった…」
そんな話をよく聞きます。
私も新卒で管理会社に入り、駆け出しのフロントだったころは大した議案も無いのによく議論を紛糾させて3時間も4時間も理事会をやったりしていました。
ところが、経験を積んで「あること」を意識するようになってから、ほとんどの担当物件の理事会が1時間以内に終わるようになりました。
これはフロントだけではなく、理事長さんも応用可能です。
そこで今回は「合意形成」の正体と、スムーズに合意形成を図る方法についてお話したいと思います!
合意形成とは
早速ですが。
「合意形成」とはなんぞや、と訊かれたら、みなさんは何と答えますでしょうか。
読んで字のごとく、そこにいる人達の合意を取る事なんですが、私はこのコトバの重要な点は「形成」にあると思っています。
「形成」で辞書を引くと、「整ったものに形づくること」と出てきます。
つまり、【主体的に】合意を形づくるのが「合意形成」です。
「そんなのはわかってるよ!」という声が聞こえてきそうですが、では主体的に合意を形づくるために、皆さんは何をしますか?
丁寧な説明会?
時間をかけた議論?
精緻に練り上げられた議案書?
もちろんそれも良いのですが、マンション管理組合でスムーズに合意を取るのが目的であれば、もっと重要なことがあるのです。
合意形成の正体
その重要なこと、合意形成の正体は「伝え方」です。
たったこれだけ。
何かの本で「伝え方が9割」というタイトルがありましたが、正に管理組合の合意形成は「伝え方が9割」です。私はこの本読んだことないけど
こういうと、口が巧いとか、詐欺師だとか、欺瞞だとか、詐術を用いたとか色々言われそうですが、そういうことじゃないんです。
そういう人たらしのテクニック的なものもあるにはあるのですが、そういうのは人によって向き・不向きがありますし、身に付けるのにかなりの訓練が必要になってしまいますので、今回は意識すれば誰でもできる手順をお伝えしたいと思います。
合意形成の手順
合意形成の手順、ポイントは3つです。
ひとつずつ解説します。
①結論を決める
これが超絶重要。
合意形成は相手に話をする前から始まっているのです。
よく管理クラスタがTwitterで「安易なアンケートはダメ」「方向性を決めるのは理事会の仕事」という話をしていますがそれと同じことで、重要議題の結論は自分の中で最初から決めておいて、それから話を始めてください。
②結論から逆算して話す
次に、結論から逆算して話をします。
ここが合意形成の肝心要なのでハッキリ言いますが、意見は自分が決めた結論に向かって誘導するものです。
みんなヒヨッて言わないけれど、これが合意形成の本質です。
だって合意は主体的に形成するものだから。これができてないから紛糾するんです。
話がまとまらないのを他人のせいにしているうちは絶対に合意形成はできないと思った方が良いです。
さて、話を戻しまして。
先に自分の中で結論を決めたら、後はみんなが「それが良いね」と言うような訊き方をすればよいわけです。
仮に「修繕積立金の徴収は段階増額方式とすべきか、均等積立方式にすべきか」という議題があるとしましょう。
A理事長は理事のみなさんにこう説明しました。
A理事長「急に大幅な値上げをする均等積立方式と、段階的に少しずつ徴収額を増やす段階増額方式、どちらが良いと思いますか?」
一方、B理事長はこう説明しました。
B理事長「分譲時の計画の段階増額方式だと最終的に月々の徴収額が400円/㎡近くになってしまいます。早期に均等積立方式に移行して、将来的な月々の徴収額の増加を抑えませんか?」
仮に理事長が均等積立方式を採用したいと考えているとすれば、B理事長の説明が正解です。
そして、「合意形成ができない」と嘆いている方の多くは無意識にA理事長のような説明の仕方をしていることが非常に多いのです。
どの結論に持っていくかによって話し方は変わるわけで、だからこそ「まずは自分で結論を決めて話す」のが大切なのです。
「自分が話したいことと相手が聞きたいことは違う」「自分が発した言葉が相手にどう聞こえるか」ということを考えずただ自分が話したいことを話しているようではお話になりません。
上司に相談するとよく「お前はどうしたいんだよ」と詰められましたが、今ならその理由がよくわかります。
自分の意思として「こうしたい」というのが無い状態で理事会に持っていくから話がまとまらなくてグダグダになるんですよね。
③議論はしない
そして3つめのポイントが「議論しない」です。
まずは結論を決めて意見を誘導し、そもそも反対意見を出させないようにするのが大前提ですが、相手は人間なので反対意見が出ることもあります。
その時に如何に自分の意見が正しいか、相手の意見が劣っているかの議論を始めてしまう人がかなり多い。
いいですか。よく聞いてください。
議論しないと賛成多数取れないようならその時点で負け戦なの。
伝え方が間違っているから議論しなきゃいけなくなるの。
更に言えば、いらん議論をするから反政府軍が湧いてくるの。
もし反対意見が出ても、その反対意見を出した人以外にちゃんと伝わっていれば、別にその反対意見とムキになって戦う必要は無いはずです。
むしろ戦ってしまうとお互いヒートアップしてしまい、周りで聞いている人はどっちかに肩入れしにくくなって「まぁまぁ、意見も割れていますしもう少し時間をかけて継続検討しましょうか」となりやすいので議論しても何も良いことはありません。
そもそも議論をするためにはお互いがその案件について同程度の知識レベルを有していていることが前提ですが、多くの場合は知識格差があるのでいきなりマトモな議論になることは稀で、前提知識をシェアするところから始めることになります。
丁寧な説明や議論と言えば聞こえは良いですが、自ら火をつけて騒ぎを大きくして消火活動に労力を割くのは私はスマートではないなと思うわけです。
- 本当に伝わるように話ができているか自分の説明を録音して聞いてみる(他の人からも客観的な感想を聞いてみる)
- 日頃の態度や言動に問題があってそもそも嫌われているという線を疑う
ことをおすすめします。
②について、具体的には、
- 人の話を遮ったりしていないか
- 意見が出ると露骨に嫌な顔をしたり態度に出していないか
- 気分で不誠実な態度を取っていないか
- 無神経に失礼なことを言っていないか
これ、意外と無意識にやってしまっているものなので、自分は大丈夫と思わず真剣に疑ってください。
意見の誘導にはちょっと抵抗が…
管理組合の合意形成の仕方はわかったけど、意見を誘導するのはやっぱりちょっと人を騙しているようで抵抗が…という方もいると思います。
私も人間なのでお気持ちはよくわかります。
ただ、厳しい事を言うようですが、そこに抵抗があるなら、議論をコントロールする覚悟がないなら、合意形成はおろか議論を紛糾させて引っ掻き回しただけで終わる可能性が大なので、問題提起などせずに黙っていた方が良いと思います。
カリスマ経営者や物語の主人公に人がついてくるのは、その人がリーダーとして覚悟を決めているからです。
必要以上に人と衝突する必要はありませんが、管理組合の合意形成をしたいのであればそれなりの覚悟は持った方が良いと思います。
何も考えず自分が言いたいことを言ってラクしたい、自分はラクしたいけど他人にお気持ちを汲んで貰いたい、コミュニケーションのコストは他人に押し付けて責任を負いたくない…そんな甘えが透けて見えるから人がついてこないのです。
言いたいことを言うだけなら子どもでもできます。オトナになりましょう。
マンション管理組合の合意形成の正体まとめ
今回はマンション管理組合の合意形成の正体についてお話しましたが、いかがでしたでしょうか。
①結論を決める、②結論から逆算して話す、③議論をしない、この3つを意識するだけで、合意形成はかなりスムーズになるはずです。
また、今回はマンション管理の知識というよりはコミュニケーションにフォーカスしました。
コミュニケーションなんてただ話せば良いのだろうと甘く見ている人が多いですが、本来コミュニケーションというのはものすごく労力がかかるもので、「なんとなく」やっているとすぐ紛糾します。
なかなか合意形成が進まない…という方はまずは3つのポイントを意識してみていただき、どうしてもわからん…という方はぜひご相談ください!