マンションの理事会役員を務めていると、どうしても仕事の予定と重なって出席できない!ということもありますよね。
「どうしても出席できないので委任状を出したい」
「妻(配偶者)宛ての委任状を出して代わりに理事会に出てもらいたい」
「理事会に委任状を出したらダメって言われた…」
こんな経験がある方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、
- 理事会の委任状は有効か
- 妻(配偶者)の理事会への代理出席は可能か
- 委任状の書き方
についてお話ししたいと思います!
理事会の委任状は有効か
まず最初に、原則として理事会は委任ができません。
マンションの総会議案書もしくは議事録を見ると、理事会役員を選任する際、「〇〇号室」ではなく「○○号室の所有者の△△さん」、つまり、「特定の個人」を選任しているかと思います。
理事会役員は総会で特定の個人に「委任」された、と解されます。
この「委任」という言葉、一般の方も会話で時々使うかと思いますが、実はれっきとした法律用語で、民法で色々と決まりがありまして。
民法第104条(任意代理人による復代理人の選任)
委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない。
つまり、委任による代理人(=理事)は、本人(管理組合)の承諾なく、妻(配偶者)や家族に理事会出席を委任することはできない、ということになります。
理事会役員の委任状提出を規約で認めるのはOK
理事会の委任状は原則として無効ですが、予めマンションの管理規約で家族の代理出席を認めていれば、妻や子ども等の代理出席も可能となります。
最高裁判所判決(平成2年11月26日)の要旨より抜粋
「理事に事故があり、理事会に出席できないときは、その配偶者又は一親等の親族に限り、これを代理出席させることができる。」と規定する規約の条項(以下「本件条項」という。)は、法49条7項の規定により管理組合の理事について準用される民法55条に違反するものではなく、他に本件条項を違法とすべき理由はない
⇒つまり、理事会への家族の代理出席を認める規約の定めは有効
もし、多くの住戸で妻(配偶者)や息子さんが代理出席されることが予想されるのであれば、予めこのような規約に変えておくのも一つの手だと思います。
マンション理事会でよくある妻の代理出席
マンションの理事会でよくあるのが、
「仕事なので代わりに妻が出席します」
というパターン。
まあ、世の中何でも本音と建て前があるものでして。
そのあたりを踏まえてお話をしたいと思います!
妻(配偶者)の代理出席|法律上の解釈
先ほどもお話ししました通り、マンションの理事会役員は民法上の委任(もしくは準委任)契約であると解されています。
そのため、分譲後に管理規約を改定して「親族の代理出席を認める」旨の定めをしない限り、区分所有者の妻(配偶者)が代理で出席することは認められません。
時々ご夫婦の共有名義とされている方もいらっしゃますが、その場合でもどちらか1人を代表者として理事会役員に選任しますので、元々選任されていない方が代わりに出席することはできません。
妻(配偶者)の代理出席|実際の運用
とは言っても、です。
実際の運用として、区分所有者の旦那さんの代わりに奥さんが理事会に出席するということはよくあります。
そもそも「理事会は区分所有者本人が出席しなきゃダメ」なんてことを知っているのは管理会社くらいでしょうし、他の理事会役員が知っていたとしても「空気読めないやつだなぁ」と思われるリスクを背負ってわざわざそんな細かいことを言う人は中々いません。
奥さんは出席しちゃダメよ、と言ったところで
「じゃあ人数足りないので理事会やめますか?」
という話にしかなりません(まあ本当はそれが正しいのですが…)。
個人的には、妻(配偶者)が代理で出席することよりも、理事会が成立しなくなって検討するべき議案がストップしてしまうという事の方がよっぽど組合にとって不都合だと思うので、妻(配偶者)が出席していてもとやかく言う必要は無いと思います。
妻(配偶者)が理事会に出席して問題になるケースとしては、理事会決議を不服とする居住者がいた時に、「その理事会は区分所有者本人が出席していないから決議は無効だ!」と主張された時くらいでしょうか。
ただ、そのようなケースもあまり心配しなくてよいのでは?と思います。
何故かというと…
東京地裁 昭和63年11月28日判決 判決要旨から抜粋
総会招集の手続きに瑕疵があったとしても、それによって当然総会の決議が無効となるものではなく、右瑕疵が重大な瑕疵である場合に限り無効となるものと解される。
要するに、「総会の招集手続きに多少問題があったとしても、決議に影響を及ぼすほど重大な落ち度が無い限り決議は無効とはならない」という判例です。
この判例は「総会」に対するもので理事会とは状況が異なりますが、考え方としては同じでよいのではないかなとは…
ただ、トラブルの芽は摘んでおくに越したことは無いので、「奥さんが出席していても細かいことは言わず、次の総会で代理出席を認める規約への改定を決議する」というのが無難ではないでしょうか。
総会は妻(配偶者)の代理出席も可。委任状の書き方は
ここまでは「理事会」についてお話してきましたが、「総会」の場合は法律上当然に委任ができます。
区分所有法第39条2項
議決権は、書面で、又は代理人によつて行使することができる。
また、マンション標準管理規約では、代理人について次の制限を設けています。
マンション標準管理規約第46条5項
組合員が代理人により議決権を行使しようとする場合において、その代理人は、以下の各号に掲げる者でなければならない。
一 その組合員の配偶者(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同
様の事情にある者を含む。)又は一親等の親族
二 その組合員の住戸に同居する親族
三 他の組合員
いずれにしても、妻(配偶者)に委任をすることが認められています。
マンションによって若干書式は違うかと思いますが、通常は総会議案書に「委任状」が同封されているはずですので、ここに妻(配偶者)のお名前を記入して提出すればOKです!
マンション理事会の委任状についてまとめ
今回は理事会の委任状、妻(配偶者)の代理出席についてお話ししましたが、いかがでしたでしょうか。
多くのマンションでは、理事会にご家族が代理で出席されるケースが起こりうると思いますので、代理出席が認められるよう管理規約を改定しておくことをおすすめします。
何度もお話ししていますが、理事会はマンションをより良くするにはどうすれば良いか考える場ですので、マンションを良くしたいという思いが少しでもあれば、ご家族が出席してもさほど不都合は無いはずです。
ぜひ、みなさんのマンションでも検討してみてください!