最近ようやくテレビ・新聞等のメディアでも取り上げられ始めた修繕積立金の不足問題。
築10年目くらいまでは維持修繕に大してお金もかからないので放っておいてもなんとかなったかもしれませんが、最初の5年、10年で修繕積立金の不足問題を放置したマンションは築20年前後から本格的に資金不足に喘ぐことになります。
更に、これまでは各マンション管理組合の自主性に任せていましたが、ここ数年はマンション管理業協会がマンション管理適正評価制度を創設するなど、管理状況が芳しくないマンションは淘汰圧がかかるような方向にシフトしつつあり、
「今まで平気だったし放っておいても大丈夫でしょ」という考えが通用しない時代が目と鼻の先まで来ています。
そこで今回は、
- マンションの修繕積立金の現状
- 修繕積立金が不足するのは何故か
- 修繕積立金が不足するとどうなるのか
についてお話したいと思います。
私の商売のことを考えれば長く契約していただきたいのがホンネですが、修繕積立金が不足しないようにレールを敷くだけなら2年あれば十分できます。
40年、50年、それ以上と続くマンションの歴史の中で、ほんの2~3年力を入れるだけでクリアできます。逆にこの一手間を惜しむことによる損失は今後更に大きくなります。
というか、このあと解説しますが放っておいてもお金はかかります。
どうせお金がかかるなら、その支出をぜひ有益なものにしてほしいのです。
今回の記事はそんな思いから書いていますので、是非最後までお付き合いください。
マンションの修繕積立金の現状
なぜ修繕積立金が不足するのか、不足したまま放っておくとどうなるのか、というお話の前に現状の確認から。
国土交通省がマンション総合調査というものを行っているので、そこから引用していきます。
長期修繕計画書の作成

国土交通省が平成30年度に行ったマンション総合調査によると、長期修繕計画書を作成しているマンション管理組合の割合は90.9%との結果が出ています。
長期修繕計画書とは、国交省のガイドラインによれば「将来予想される修繕工事等を計画し、必要な費用を算出し、月々の修繕積立金を設定するために作成するもの」です。
詳しい説明は割愛しますが、要するに90%以上のマンションでは将来的に修繕積立金が不足しないようにするため【計画】自体はある、ということになります。
長期修繕計画書どおりに修繕積立金を徴収しているか

これも同じくマンション総合調査(平成30年度)によると、現在の積立額が計画に比べ不足しているマンションが34.8%となっています。
なので、90%のマンションでは「計画」を作っているけど、そのうちの3割以上が計画通りに修繕積立金を徴収(積立)できていない、というわけです。
また、計画通りに積み立てていても、そもそもその「計画の妥当性」については検証されていないので、計画の見立てが甘く見かけ上は修繕積立金が足りている「ように見える」、というケースも含まれます。
そのため、「34.8%」という調査結果以上に修繕積立金が不足しているマンションは多いと思われます。
修繕積立金が不足するのは何故か

修繕積立金が不足する理由はいくつかあるのですが、代表的な要因を箇条書きにすると、
- 売主が販売しやすいように初期設定を安くしている(売主の都合)
- 分譲時には値上げしていく「計画」しかなく誰かが総会に議案上程しなければ計画通りに徴収できない
- 修繕積立金値上げへの反対意見が強く、総会への議案上程が頓挫してしまう
おおまかにはこんな感じで、最初の二つはもう売主側の問題で言っても仕方ないのですが最後の1つが非常に厄介。
計画があるならその通り徴収額を設定(均等積立方式に移行)すればいいのですが、そりゃみんなホンネはお金払いたくないですし、提案するということは嫌われ役にならざるを得ない。
誰だって今後も生活するマンション内で嫌われたり敵を作りたくないですから、味方を集めるのも一苦労、自分1人がたいへんな思いをしてまで…と、多くの人はここで心が折れます。
で、ときたま心が強い人が提案はできても、理事会内で猛反発を喰らって総会に上程できず…
こういうパターンが非常に多い。
多くの人はマンション管理が本職ではないでしょうから提案するのに心理的ハードルが高いですし、孤立無援となりやすく提案しても反発の声が上がって頓挫しやすい、というわけです。
だからこそマンション管理士を使ってほしい

ここでちょっと私の宣伝になりますが、
- 嫌われ役を誰もやりたくない
- せっかく提案したのに反対派に押されて頓挫
こういうの、マンション管理士を入れることで解決しやすくなります。
「一区分所有者の素人が好き勝手言っている」と思われるから嫌われかねないし、反対派の声が大きくなりやすい、だから頓挫しやすいんです。
要は、「私が言っているのではなく、専門家がこう言うてるんです」という使い方をしていただきたいのです。
営業や怪しげなビジネス勧誘の世界では当たり前に行われている「ボイスチェンジ」という手法です。
よく子どもに「ほら、カトちゃんも『歯ァ磨けよ!』って言ってるでしょ!」とか言うでしょ?アレを大人にもやるんです。
そうすれば「カトちゃんが言うならまぁ…」となるかもしれないし、もし反発されても嫌われるのはカトちゃんです(まぁプロなので反発されないようにちゃんと説明しますが)。
修繕積立金が不足するとどうなる?
以上、私の広告のコーナーでした。
というところで終わっても良いのですが(よくない)
そもそも何故修繕積立金をきちんと積み立てないといけないのか?という理由もざっと挙げておきたい思います。
必要な工事ができない

土地と建物を持つ(=管理責任も持つ)ということは、多くの方が思っている以上にお金がかかるし、かといって放っておくわけにもいかないことが多い。
例えば2020年2月に発生した逗子の斜面崩落事故。
お亡くなりになった方のご遺族がマンションの区分所有者側を過失致死容疑で逗子署に告訴しましたが、必要な工事にお金が掛けられなければこのようなリスクも高くなります(この件の場合は危険を予測できたかという問題もありますが)。
土砂崩れに限らずタイルが剥落した、建物の付属物が経年劣化で落下した、という事例は数多くありますし、計画的に修繕する、もしくはヤバいと思ったらすぐ修繕できる資金を積み立てておくのは所有者の義務と言っても良いのではないかと思います。
マンションの価値が下がる

マンションの外観の美しさ、エントランスに入った時の雰囲気等の「見た目」は、入居・購入を決める時の印象に大きく影響しますが、お金に余裕がないと躯体やライフラインの維持修繕にいっぱいいっぱいで、外観・内装の補修やグレードアップに手が回らなくなります。
これ、管理会社のフロントとして多くのマンションを見てきましたが間違いありません。
お金に余裕がないと内装は絶対に後回し(なおざり)になります。
ただ、管理上重要なのは躯体・ライフラインでも、これから部屋を借りたり購入しようという人達は外観や内装の【美観】を重視します。
賃借人が付きにくければ賃料を下げて募集するしかありませんし、売却したくても売れなければ数百万円単位で値下げするしかなくなります。
そして安く住める・安く買えるということは、新築時とは異なる客層の人達が入ってくるということです。
前に修繕積立金に関する他の記事でも書きましたが、収入や生活レベルの違う人達と合意形成を図るのは非常に難しいですし、想像以上にストレスが溜まります。
月々数千円の支出をケチって美観のよろしくないマンションに住み、ちょっと会話の噛み合わない人達が続々入居してきて、売却時も数百万安く買い叩かれるなら、なんでマンション買ったのかわからないと思うんですよね…
借入により余計な利息を払うことになる

一部「億り人」などと言っては喜ぶローンジャンキーみたいな異常者(褒め言葉)もいますが、多くの方は借金したくないですよね?
↓の記事でも書きましたが、最初から必要なのがわかっているのにわざわざ無駄に利息を支払う理由がないでしょう。
ヤバくなったら売り抜いてしまえ、というのも先に申し上げたとおり所有者としてあまりにも無責任だと思います。

今後は保険料にも影響

これです。
マンション管理にアンテナを張っている理事長さんたちの多くは「ついに本腰入れてきたな」と潮流の変化を感じ取ったはずです。
ついにマンションの管理状況が、マンションの保険料に反映されるようになる方向へ動き始めました(管理業協会のページはこちら)。
そしてここでいう「管理状況」の指標として、修繕積立金の状況も含まれます。
つまりどういうことかというと、これからは放っておくとインセンティブを受けられない(=支出が増える)ということです。
マンションの修繕積立金不足まとめ
今回は私の広告のためマンションの修繕積立金不足とその理由についてお話しましたが、いかがでしたでしょうか。
もちろん、マンション管理士など使わなくても管理状況が良好な敏腕理事長さんたちもたくさんいます。
が、その一部の凄い人達がタダ働きしてあたりまえ、という感覚では日本全体で見た時ににっちもさっちもいかなくなっているのが実情です。
繰り返しになりますが、一部の人が長期間身を削って大変な思いをしたり、放置して取り返しがつかなくなるくらいなら、早い段階で2~3年マンション管理士を使ってでも早期解決してしまってほしい、というのが私の思い。
その方が一時的にお金がかかっても、長い目で見たらお金の面でも労力の面でも絶対にお得なのは既に述べたとおり。
1人でも多くの理事長さん、1件でも多くの管理組合のお力になれれば幸いです🐑