私がフロント時代に出逢った理事長さんで「これはあっという間に均等積立方式に移行できるだろうな」と思った方がいたので、その方は具体的にどうやっていたのかお話ししようか!
今、ようやく注目を集め始めた修繕積立金の均等積立方式。
興味はあるけど、何から手を付けて良いかもわからずお困りの方も多いのではないでしょうか。
「修繕積立金は均等積立方式に変更した方が良いって聞いたけど、どうすればできるの?」
「他のマンションではどうやっているの?」
そんな疑問に対して、1つの事例としてご紹介できればと思います。
「そもそも修繕積立金とか均等積立方式って何?」という方はまずこちらをお読みください↓↓
新築物件を担当することに
私が新卒で管理会社に入社して1年目も終わる頃のこと。
チーム会議で上司から
「春から管理開始の新築物件、うちのチームで持つことになったんだけど誰かやる?」
とのお話が。
上司「〇〇さんやる?」
〇〇さん「いやぁ…(目を伏せる)」
上司「じゃ、△△さんやる?」
△△さん「いやぁ…(目を伏せる)」
毎度おなじみ、親の顔より見た光景です。
で、当時上司に「5年でその席座ります!」とか言い放って上から目を付けられるイキったウスラトンカチだった私は、
「その物件、私に担当させてください!」
と立候補。
これが運命の歯車を動かすことに…
何でもそうですが、攻めの姿勢でいるとこういう方との出会いを引き当てます。
めちゃくちゃ勉強になりましたし、あの時立候補して良かったなと今でも思います。
「設立総会に長計を人数分持ってきて」との依頼…
新築マンションが分譲されると、数か月後(物件の規模等によって異なりますが)に「設立総会」が開催されます。
設立総会で役員の選任も行うので、その時点では管理会社のフロントさんが議長を務め、最初から最後まで管理会社が一方的に話をしておしまい、というのが一般的です。
ところが。
設立総会に向けて議案書を作成していた私に、後に理事長になるBさんから一本の電話が。
Bさん「〇号室のBと申します。理事長をやりたいと思っていまして、設立総会で役員選任をするかと思いますので、その候補者に私を入れていただけませんか」
私「あ、はい、それは構わないかと思いますが、念のため上席に確認してから改めてご連絡させてください」
当時ぺーぺーで何にもわかってなかった私はすぐ上司に相談。
上司「やるって言ってるならやらせるしかないでしょ」
私「そうですよねぇ…」
上司「ヤバいニオイがするな。気ぃ抜くなよ」
私「はい…(やべー物件に手を挙げちゃったかもな…)」
そして理事長(予定)のBさんに電話。
私「役員の件ですが、問題ないとのことですのでそのように議案書を作成します」
Bさん「ありがとうございます。実はもう1つお願いがありまして」
私「はい…なんでしょう?」
Bさん「販売時に配付した長期修繕計画書がありますよね。あれ、人数分印刷して持ってきていただきたいのです」
私「長計ですか…はい、承知いたしました」
そんなやり取りを経て、設立総会の日を迎えます。
自ら長期修繕計画書を説明
管理規約の追認、管理委託契約の締結等もろもろの議案も可決し、正式に役員に就任したBさんが挙手。
Bさん「私から、少しよろしいでしょうか。」
いきなりリプレイスとか言われることまで覚悟していた私に緊張が走る。Bさんは続ける。
「役員に立候補したBです。よろしくお願いいたします。」
「私が何故立候補したのかお話ししたいと思います。みなさんは、購入時に【長期修繕計画書】を売主から受け取っていると思いますが、中身を読まれましたでしょうか」
そういって、印刷してきた長期修繕計画書を全員に配り、説明を始める。
「30年後の修繕積立金の金額を見てください。そう、ここです。」
長期修繕計画書の30年目の金額を指さす。Bさんは続ける。
「30年後にこれだけの修繕積立金が必要です。そして、それまでの間に数回の値上げが計画されています。つまり、初期設定の金額で積み立てていても絶対に足りないのです」
「私は前に住んでいたマンションでも理事をしていましたが、慢性的に修繕積立金が不足していたためにいつも『お金が足りない』『お金が足りない』といってはピリピリして、深夜まで何時間も理事会をやって、それでも何も解決せずにみんな疲弊していく…そんな状態になっていました」
「このマンションは絶対にそんなふうにしたくないのです」
…ぺーぺーだった私でも、その場にいる全員にこの演説がブッ刺さっているのをビリビリ感じました。
設立総会にして、組合員の大半に「修繕積立金の適正化が必要」という認識を共有することに成功しました。
第1期中に管理費会計のテコ入れに着手
そこからは凄かった。
修繕積立金の適正化(はっきり言えば【値上げ】)の話をすると必ず「コストカットが先だ!」という勢力が現れることを重々承知のBさんは、第1期の通常総会までに
- エレベーター保守会社を独立系に変更して保守費用削減
- インターネット業者に減額交渉して利用料削減
- 電子ブレーカーを導入して電気料削減
ここまで達成しました。
これ、理事やったことある方ならわかると思いますがかなりヤバくないですか?
いくら経験者とはいえスピードが別格すぎる。
普通はこれだけスピード改革しようとすると反発されやすいのですが、設立総会の演説がぶっ刺さっているのでほぼ無風。
私のルーツの1つです。
多くのマンションでエレベーター保守は管理会社との管理委託契約に含まれていて、更に管理会社はメーカー系のエレベーター保守会社との間で1年契約を結んでいるため、本来1年以内に解約することは不可能です。
このマンションも例に漏れずそういう契約になっていたのですが、Bさんは管理会社に
「契約上無理は承知です。今後も御社と長いお付き合いを考えていますので何とかエレベーター保守会社と交渉をお願いできないでしょうか」
と言ってきました。
これ、管理会社からすると口調が柔らかいだけに余計に怖くて、急所に刃物を突き付けられてお願いされているような状況なんですが…w
で、管理会社は理事長に忖度し、メーカー系エレベーター保守会社は管理会社に忖度する格好で異例の1年未満での解約・保守会社変更が決まりました。
演説も神がかってましたが、交渉もとにかく上手かったです。
イベントも積極的に開催
このへんが「お人柄」なんでしょうが、Bさんは組合員間のコミュニケーションにも積極的で、消防を招いてのAED講習やバーベキュー、餅つきも開催してました。
事故や食中毒対策で事前にレクリエーション保険に加入したりと抜かりなし。
普通、組合の財政改革に熱心な人はコミュニティ活動は苦手で、反対にコミュニティ活動を好む人は財政とか無頓着というパターンが多いのですが、Bさんはどちらもこなして人を巻き込む能力が非常に長けていました。
勝負の第2期
で、ここまで読んだら第2期に均等積立方式への変更は確実でしょ…と思われるかと思いますが実は。
私はこのマンションの結末を知らないのです。
第2期に入ったところで、私が最初の会社を退職してしまったのです。
Bさんには本当に申し訳なく思っていますし、私自身もう少しこのマンションで勉強させていただくべきだったなと後悔しています。
ただ、結果は見てませんが恐らく第2期、遅くとも第3期には均等積立方式への変更を完了していると思います。
だって、あれだけ認識が共有されていて、理事長の支持が盤石だったらできない理由が無いですから…
思い返せばすさまじく勉強させていただいた、忘れられないマンションです。
修繕積立金の均等積立方式への変更まとめ
今回は私がマンション管理業界に入ったばかりの頃の、スーパー理事長のことを思い出して修繕積立金の均等積立方式への変更を「どうやって」進めるのか、具体例としてお話ししました。
多数決で物事が決まる管理組合運営において、多くの組合員に認識を共有すること、理事会の支持を固めることは非常に大切です。
これから理事になる方々へ、少しでも参考になればと思います。