令和6年(2024年)3月26日付で公表された「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン(案)」 、皆様はもう読まれましたでしょうか。
- 従前のガイドラインとどう変わったのかわからない
- 第三者管理方式と外部管理者方式って違うの?
- 外部管理者方式のガイドラインの要点は?
- 結局外部管理者方式ってどうなの?良いの?悪いの?
そういった疑問をお持ちの方も多いはず。
今回はそういった点を解説するとともに、私の個人的な意見もお話したいと思います。
そもそも第三者管理(外部管理者方式)とは
国土交通省の「マンション標準管理規約」では、区分所有者(組合員)の中から選ばれた数名の理事で構成される「理事会」を置き、理事会が中心となって組合を運営する「理事会方式」を採用しており、多くの分譲マンション管理組合では概ねこれに準拠した規約設定となっています。
ところが近年、高齢化による役員の担い手不足や管理の困難化、大規模マンション等での管理の高度化・複雑化といった要因から、外部専門家を招聘して顧問やアドバイザー、もしくは外部理事や外部監事に据えたりするだけでなく、更に踏み込んで理事会を廃止して「管理者」に据えてしまおう、という事例が増えてきました。これが第三者管理(外部管理者)方式です(正確な定義はガイドライン参照)。
今回のガイドラインは「マンションにおける外部管理者方式『等』に関するガイドライン」となっており、理事会を廃止せず外部専門家を外部理事や外部監事等として起用する、若しくは理事会とは別に独立させて管理者を置くケースも想定したものとなっています。
これまでも顧問やアドバイザー、コンサルタントといった立場でマンション管理士等の外部専門家を起用するケースはありましたが、第三者管理(外部管理者)方式の場合は外部理事や外部監事等の役員として、あるいは理事会を廃止して管理者に就任することでより直接的に運営に携わる点で従来と大きく異なります。
基本的に、顧問やアドバイザーという立場よりも直接運営に関わることでより直接的に・スピーディに課題解決に取り組むことができる一方、外部専門家の権限が大きくなるため、独断専行的な運営や、利益相反のおそれ等が指摘されています。
外部管理者方式でもそのようなリスクがあるのは当然ですが、それを恰も外部管理者方式だけに存在するリスクかのように考えると議論が噛み合わなくなります。
国土交通省の第三者管理(外部管理者)ガイドラインとは
元々は「外部専門家の活用ガイドライン」という名称で、標準管理規約別添1の「外部専門家の活用パターン」の3つのパターンを主として具体的な導入手続きの流れ等を解説・補完するようなガイドラインでした。
この従来の「外部専門家の活用ガイドライン」には「管理業者が自ら管理者に就任する場合の手法についてお示ししているものではありません」との記述があり、管理会社とは別に、マンション管理士やその他専門家を起用することを前提としたガイドラインとなっていました。
ところが、近年ではこのような「管理会社とは別に」外部専門家を起用するのではなく、管理会社(管理業者)が自ら管理者に就任するケースが増えているのが実態となっており、管理会社(管理業者)が自ら管理者に就任するケースも想定したガイドラインの作成・改訂が求められていました。
第三者管理(外部管理者方式)のガイドラインはどう変わった?
こういった背景から、「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」に名称変更し、前提として大きく次の2点が変わりました。
①管理不全マンションだけではなく他のマンションにまで一般化
従来は「主として、住宅政策上の重要な課題となる管理不全マンションになることも懸念される既存のマンションを念頭に置き構成」「投資型マンションや新築分譲マンション等を念頭に作成されているものではない」といった記述がありましたが、改訂案では「主として、自己居住用のマンションを対象」「いわゆるワンルーム型の投資用マンション(単身居住用ワンルームが多く、主に投資を想定して供給されたマンションのことを言います。以下同じ。)やリゾートマンションにおいても、本ガイドラインの内容は参考となります」とされており、元々は管理不全マンションを想定したガイドラインだったものがその他のマンションまで一般化したものとなっています。
②管理会社自ら管理者に就任するケースも想定
従来は「管理会社(管理業者)とは別に」外部専門家を起用することを想定していたが、改定案では管理会社自ら管理者に就任するケースも想定しています。
国土交通省の第三者管理(外部管理者方式)ガイドラインの要点は?
上記のような前提変更はありつつ、基本的には標準管理規約別添1に記載の以下の3パターンを想定している、という点は以前と変わりません。
それぞれのメリット・デメリットといった一般論や、導入までのプロセスなどはガイドラインと、標準管理規約別添の説明を読んでいただいた方が正確かと思います。
① 理事・監事外部専門家型又は理事長外部専門家型
一つ目のパターンが「理事・監事外部専門家型又は理事長外部専門家型」です。
理事会は維持してその中の1人として外部専門家を招聘するため、現在理事会方式で運営している管理組合からすると最もシンプルでわかりやすいパターンだと思います。
個人的には、管理者単独(理事会を廃止)のパターンだと管理者に責任と裁量が偏り過ぎる側面があるため、単独でリーダーシップを発揮できるほど主体的に運営する能力は無いが、理事会で意思決定に参加する程度の能力を有する理事ならば組合内部で工面できる、という管理組合であればこのパターンで外部理事や外部監事として起用するのが最もバランスが取れていて現実的な落としどころではないか、と思っています。
②外部管理者理事会監督型
パターン①と似ていますが、標準管理規約では理事長=管理者としているところ、理事長とは別に、理事会の「外」に管理者を置いて、理事会は監事的立場から管理者を監視・監督する建てつけです。
管理組合側から見れば、理事会が厳しくチェックすることにより外部専門家(外部管理者)の監視が効いたり、理事会側の意思が反映しやすいため安心できるという側面はありますが、外部管理者の立場からすると管理者としての責任は重い上に、理事会から細かいチェックや要求を受けることになりかねず、理事会メンバーの属性にも依りますがチェックや要求が厳しくなればなるほど外部管理者の報酬は高額に設定せざるを得ませんし、仕事に困っていない人気のあるプレイヤーほど仕事を受けてくれなくなる可能性もありますから、組合全体としてどこまでのレベルを要求するべきかという匙加減・バランス感覚が重要になります。
そもそもの出発点として、そういう理事会役員の能力に依存する属人的な理事会方式で運営するのは限界あるよねってところから外部管理者の話が出てきている側面もあることからすると、これでは本末転倒な気がします。
③外部管理者総会監督型
管理会社(管理業者)による第三者管理(外部管理者)方式の殆どはこのパターン。
基本的に、規約や契約で細かい縛りを追加しないなら理事会が無い分上記の2パターンよりも管理者は自由に動けるので、お客様気分のメンドクサイ組合員がたくさん現れて膨大な手間と労力がかかり何も決まらないのに文句ばっかり言われて誰も理事会をやりたくない…みたいな都市部の大規模マンションにはこのパターンが向いていると思います。
第三者管理(外部管理者方式)は良いの?悪いの?
結論からいうと、第三者管理(外部管理者)方式といっても色々なパターンや管理者に対してどこまで縛りを設けるかという程度問題もありますし、先ほどから少し触れているように組合の状況(規模・立地・組合員の特性・管理会社との関係性等々…)によって最適な裁量のバランスは様々なので、組合として何を重視するか・何を望むか次第とはなってしまいます。
が、ガイドラインの中で懸念されている事項や考え方、その他パブリックコメントで挙がった意見について、Q&A形式で私の意見を述べてみたいと思います。
よく言われる「元請工事やグループ会社の利益のために不要な工事を実施される」みたいなものですが、一般的な規約設定であれば修繕積立金の取り崩しには総会決議が必要なので、本当に過半数の組合員が「不要」と考えているのであれば総会で否決できます。可決されるということは、総会に参加した過半数の人は「不要」とは思っておらず、不要と思っているのは貴方だけ、もしくは少数派だということです。
こういうと「総会は委任状で決まってしまうから実質機能していない」という反論が返ってきますが、逆にそうであれば現状の受動的な輪番理事会による総会であっても管理会社にとってはほとんど同じことです。
結局のところ「誰を信用するか」という話にはなってしまうのですが、現在のその組合の立ち位置やニーズを実際に理事会等に出席して見て・聞いて、その組合の事情に合わせて客観的にアドバイスできる人は一度呼んだ方が良いとは思います。
誰を呼ぶかはセンスの問題ですが、私で良ければお問い合わせフォームからご連絡ください。
因果が逆です。
上述のとおり管理組合の自主性に任せた結果ダメだったから外部管理者、という話になっている側面もあるわけで、それだけ主体的な「住民の意思」があるなら最初から理事会方式で頑張れば良いし、区分所有法第34条5項のいわゆる「1/5総会」もあるわけで、それすら出来ないのであればそれはもはや住民の意思とは言わないと思うんですよ。
それこそ管理者の行為に不正があるなら区分所有法第25条2項によって各区分所有者が単独で裁判所に解任請求ができますから、あんまり個人的な好みで解約・解任できるようにするのもどうかと思います。
管理会社で働くなら管理業務主任者くらい取ってください。
これも突き詰めるとまた「誰を信用するか」という話に行きつくわけで、管理業者が信用できないから別の外部専門家を…というならその外部専門家が信用できるかはどうやって担保するのかという話です。
私の個人的な利害でいえば必須にしてもらってお仕事増えた方が嬉しいですけども。
組合員であってもマンション管理士であっても、程度の差こそあれ常に全員の利害が完全に一致することは基本的にあり得ないわけですから、抽象的な話で利益相反だと宣っても仕方ないと思いますよ。
外部管理者や管理業者にマージン取られることさえ阻止すれば、無能な素人委員会がトンチンカンな工事に素っ頓狂な金額ぶち込んでも構わないとでも考えているのか。
以前管理会社の工事は高い?相見積もりや中間マージンぶっちゃけトークという記事でも書きましたが、マージンが悪という前提から疑った方が良くて、逆にマージン取らなくても工事の提案ができるのは工事会社に丸投げして何にもしないからであって、管理組合側のニーズを丁寧に説明したりだとか、条件や日程の折衝したりだとか、話の通じない工事業者を〆たりとか、管理組合のニーズを満たそうと思ったらいくらか貰って工事会社との間に入らざるを得ないのが現実です。たかだか数%の工事費をケチるためによくわからないネットで見つけた最安値のチンピラ業者に丸投げするのが本当に善なのかって話です。
一応ガイドラインでも「管理組合の承認を得ずに、管理組合に紹介した業者等から紹介料・手数料・仲介料等の対価を受領しない」とあるので、きちんと説明すれば手数料を取って良いことにはなっていますが、この書き方だと正しく日本語を読めない人もたくさんいるから、もっとはっきり「管理者がしっかりカネ貰って主導権握るべき」くらい書いても良いと思うんですよね。
そもそも管理組合の中だけでは誰も主導権握って運営できない(しない)から外部管理者方式にしてるわけでしょう?
更に言えば、近い将来、大都市圏はともかく地方に関しては管理会社とか外部専門家とか、何らかの企業や団体のコネが無いと工事会社もなかなか仕事受けてくれなくなると思いますよ。それで工事受けてくれるところがないから地方支店では工事から撤退している管理会社も既にあるわけで。
工事会社から見れば、億単位の大きな仕事が他にあるなかで、地方の小規模マンションの数千万レベルの、しかも管理組合とかいうメンドクサイ素人集団相手の仕事なんてわざわざやりたくないのがホンネだったりします。
国のガイドラインは立場上保守的に作らねばならない事情があるからこういう書き方になっていますが、実際に管理組合の立場で運営を考えるならこういった現実と向き合って考えた方が良いと思います。
参考になりましたでしょうか。
第三者管理(外部管理者方式)のガイドラインは守らなくてもいいの?
ここまで色々と言いましたが、あくまでもガイドラインなので、守らなかったからといって何か罰則がある訳ではありません。
ただ、法的拘束力は無いものの、「外部専門家等の活用のあり方に関するワーキンググループ」に参加されていた鎌野先生も講演で「ガイドラインであって法律ではないので現段階で法的拘束力は無いものの、これが守られず問題が起きるようであれば法律にして拘束力を持たせるしかなくなるでしょう」というお話をされていました。
第三者管理(外部管理者方式)ガイドラインや一般論より大切なこと
ガイドラインより大切と言うと語弊がありますが、ガイドラインはあくまでも一般論ですから、個々の管理組合では、外部管理者方式が一般論としてどうかということを議論するよりも、「自分たちの管理組合にとって何が最善か」を考えるべきです。
ガイドラインは守れるなら守るにこしたことはありませんが、資金も、人的資源も、その他諸々の事情もマンションによって千差万別でしょうし、そういった個別の事例に対応するためにマンション管理士という仕事があると思っています。
例えば。
ガイドラインでも、我々のようにお仕事でマンション管理に携わっている人間でも、「○○には△△というリスクがあります」という指摘はできます。
しかしながら、世の中には「理屈の上では起こり得る(リスクがある)けど、現実的には何かしら理由があってそれは発生し得ない」ということも結構あるわけです。
よく言われる管理者の独裁リスクなんかは正にそれ。単に自分の個人的な意見が通らないのを「独裁」と呼ぶならともかく、多くの人が納得していないのに独裁がまかり通るなんてことは、大手管理会社なら企業イメージ毀損リスクがあるのでそんな無茶はしないのでは?
実際の外部管理者方式移行を考える現場においては、そのリスクの発生確率や、発生した場合のダメージの大きさと、外部管理者方式で享受できるメリットを比較衡量しないと建設的な議論にはなりません。
ムリに決まっているものを欠点やリスクをあげつらうだけでは建設的ではないですから、それらと享受できるメリットを勘案して結論を出しましょう。
国土交通省の第三者管理ガイドライン改訂|外部管理者って何?まとめ
今回は国土交通省の第三者管理ガイドライン改訂についてお話しましたが、いかがでしたでしょうか。
確かに、第三者管理(外部管理者)方式にはリスクやデメリットもありますが、そのリスクは必ずしも外部管理者方式だけにユニークなものではないことも多いですし、理事会方式ならノーリスクかというとそんなことはないから国もガイドラインを作成して真剣に検討しているわけです。
ガイドラインを参考にメリット・デメリットを洗い出して、それを踏まえた上でそれぞれの管理組合で答えを出していきましょう。
今回の記事が少しでもお役に立てれば光栄です。