輪番でマンションの理事になったら、管理会社から突然「管理委託費を値上げさせてほしい」との要求が…という状況でどうしたらよいかわからず困った経験はありませんか?
「管理委託費の値上げって受け容れていいの?」
「管理委託費の値上げを要求されたけど、適正金額なのかわからない」
「なんとか管理委託費の値上げを阻止する方法はないの?」
そんな悩みをお持ちの方も多いはずです。
そこで今回は、
- 管理委託費の値上げに応じるべきか
- 管理委託費の値上げに応じる前に
- 管理費が足りないなら値上げ
という内容でお話していきたいと思います!
「管理費」と「管理委託費」について
よく混同されますが、これが区別できていないとこの後のお話がわかりにくくなってしまうので、先に説明しておきます。
◆管理費…「区分所有者」から「管理組合」に支払うお金
◆管理委託費…「管理組合が集めた管理費」から「管理会社」に支払うお金
です!
図にするとこんなかんじ↓↓
管理委託費の値上げに応じるべきか
理由や詳細は追って説明しますが、結論を言ってしまうと「金額の妥当性などの検証のために増額まで1~2年くらい猶予を貰った後に増額を受け容れる」というのが多くの場合の落としどころだと思います。
何故かというと…
- 採算が合わなければ管理会社は撤退してしまう
- 撤退されたら次の管理会社探すしかないけど、それって労力と見合ってる?
- 交渉して値上げ阻止できたとして、あなたがずっと理事続けるんですか?(輪番で他の人に代わったら多くの人は大抵折れて受け容れる)
という諸々を勘案すると永遠にゼロ回答で粘るなんてのは絶対にムリでどこかで受け容れざるを得ないから。
頑張っても問題の先送りにしかならないなら他のところに労力割いた方が良いと思うんですよね。
「納得いかん!!」
「理事会は努力が足りん!!」
とか総会で吠える人もいるでしょうが、みんなが公平にラクするために「管理費」を負担して管理会社に管理委託費を払っているのだから、納得いかないならその人が負担に任じるのがスジ。
…ですが、こういうタイプの人に管理組合の舵取りを任せるのはかなり危険で、「じゃあアンタがやってよ」でやらせたら管理会社からも見放され、やったらやりっぱなしで管理仕様も財政状況もめちゃくちゃ…となるリスクが非常に高いので、理事会できちんと鎮圧することをお勧めします。
理解してもらうためにどうするか、という点についてこの後お話します。
管理委託費値上げに応じる前に
ここまでは「管理会社の管理委託費の値上げ要求が妥当である」という前提でお話をしてきましたが、本当に妥当かどうかは1つ1つ検証していかないとわかりません。
そこで、
- 管理委託費の値上げまで猶予を貰う
- 管理委託費の相場を踏まえて値上げが妥当か検証する
- 組合員(区分所有者)の理解を得る
という手続きが必要になります。
管理会社に猶予を貰う
私は常々「管理会社と仲良くしましょう」と主張していますが、管理会社(特にフロントさん)との関係性はこういう時に威力を発揮します。
というのも、一口に管理会社からの管理委託費の値上げ要求といっても、
- 本当に採算が合わないから値上げせざるを得ない(値上げできなければ解約もありうる)
- 別に採算が合わないわけじゃないけど会社から「一律どこの組合にも値上げ要求してこい」と言われたから話を持ってきただけ
- 本当はもう解約したいけど、管理会社から解約突き付けて角が立つのもイヤだから、値上げ要求をして管理組合から切ってもらいたい
など色々あります。
①ならば真剣に検証していく必要がありますが、②であればフロントさんに「蹴っても大丈夫か」探りを入れた上で会社向けには「提案したけど組合に蹴られちゃいました」と報告して貰えば終わりですし、③なら問題は金額の妥当性以外のところにあるわけですからそちらを解決するべきです。
その辺の社内の温度感をフロントさんから聞き出せれば楽ですし、逆にそれが出来ずに状況を読み違えると議論がアサッテの方向に流れて話がややこしくなります。
少し話が逸れましたが、①だとしても値上げ要求の妥当性の検証や組合員(区分所有者)の理解を得るのに時間は必要ですから、値上げまで1年~2年猶予を貰えるよう、フロントさんから会社に掛け合ってもらいましょう。
(解約の申入れ)
第十九条 前条の規定にかかわらず、甲及び乙は、その相手方に対し、少なくとも三月前に書面で解約の申入れを行うことにより、本契約を終了させることができる。
(契約の更新)
第二十一条 甲又は乙は、本契約を更新しようとする場合、本契約の有効期間が満了する日の三月前までに、その相手方に対し、書面をもって、その旨を申し出るものとする。
2 本契約の更新について申出があった場合において、その有効期間が満了する日までに更新に関する協議がととのう見込みがないときは、甲及び乙は、本契約と同一の条件で、期間を○月間とする暫定契約を締結することができる。
とされていますので、お互いが協議に応じるなら暫定的に契約延長はできるけど、管理会社が本気で切りに来たら三ヶ月前の通告で解約できてしまいます。
だから管理会社との関係性が重要で、「検討するから時間はちょうだいね」というスタンスが必要となるわけです。
管理委託費の相場を確認する
突然のポジショントークですが…
相談料5,000円でお受けいたします。
お問い合わせフォーム置いておきますね。
という営業活動が終了したところで。
真面目な話、こればっかりは各項目ごとの相場がわかってないとどうにもならないんですよね。
先ほど少し触れた「標準管理委託契約書」にならって、マンションの管理委託契約書を見ると各項目の内訳はこんなかんじになっているはずです。
定額委託業務費月額内訳
一 事務管理業務費 月額 ○○円
二 管理員業務費 月額 ○○円
三 清掃業務費 月額 ○○円
四 建物・設備管理業務費 月額 ○○円
ア ●●業務費 月額 ○○円
イ ●●業務費 月額 ○○円
ウ ●●業務費 月額 ○○円
五 管理報酬 月額 ○○円
※「管理報酬」は管理会社によっては事務管理業務費に含めて記載が無かったり、「一般管理費」「管理手数料」等と違う名前だったりします。
マンションの規模にもよりますが、すごーくざっくりした目安としては、
- 事務管理業務費(「管理報酬」がある場合は合算して考える)
→戸あたり月額1,300円~2,000円くらい
- 管理員業務費
→管理員時給×週あたり勤務時間×4週×2くらい
- 清掃業務費(清掃員業務費)
→管理員業務費と同じ考え方
- 建物・設備管理業務費
→エレベーター保守や機械式駐車場保守料は計算しやすいけど仕様次第。詳しくは↓ご参照ください。
というのが相場感です。
値上げ後の管理委託費がこの相場の範囲内なら値上げを受け容れるしかないと思います。
管理会社だって慈善事業じゃなくてビジネスですから利益が出なければやっていけません。
- ドンブリ勘定
- 右に倣え
体質だということ。
例えば、管理員業務費だけ見ると確かに大赤字で採算が合っていないけど、その他の設備管理業務費で項目ごとに見ていくと50%も60%も利益が乗ってるというアホみたいな積算をしてるケースがあったりします。
要は各項目ごとじゃなくて「全項目のトータルで利益が取れていれば良い」というドンブリ勘定的な考え方で、昔よりはだいぶ改善しましたがその名残みたいなものは今でも結構残っています(でも管理員業務費改善プロジェクトのチームは管理員業務費の利益率しか見ていないから、トータルでは黒字の組合にも値上げ提案してきたりする)。
で、右に倣えというのもそのまんまの意味で「他社が値上げで収益改善に取り組んでるからうちもやろう」ということ。
簡単に言うと管理会社は基本的にそこまで細かく物事を考えておらず、元来そういうのは苦手なので、その辺を踏まえて交渉しないと組合側としては「普通」のことを要求しているつもりでも管理会社はついていけなくて解約通知が飛んでくる、ということが起こります。
なので繰り返しのポジショントークにはなりますが、そういった匙加減が分からない場合は拗れる前にご相談いただきたいなと思います。
管理会社に説明してもらうべきか
先日Twitterに生息している怖い人達の間で話題になっていたのが、「管理会社に住民説明会やって貰えばいいよね」という意見。
まぁ確かに管理会社から要求してきているんだから、管理会社がその妥当性を説明するのはスジですよね。
但し、管理委託費を払う管理組合側(=理事会側)もそれを理解していて聞かれたら説明できるようにはしておかないと、管理会社に反発する区分所有者がいた時に収拾がつかなくなりますし、この後お話ししますが管理費を値上げせざるを得ないとなったときに説明ができませんよね。
なので、説明会は管理会社にやってもらうとしても、理事会側としてもきちんと理解して説明できるようにしておく、という準備は必要だと思います。
理事会で判断できないから住民にアンケート取ろうか…という運営をしている組合って、大抵収拾がつかなくなって何も決まりませんでした、となることが多いですよね。あれと同じです。
管理費が足りないなら値上げ
これも結論からですが、管理委託費が値上げとなった結果、管理費会計が単年度収支で見て赤字となり、翌年以降も計算してみて赤字が続くようであれば、管理費を値上げするしかありません。
すっごく初歩的なというかマンション管理以前のお話ですが、お金って「労働」や「価値」の対価ですよね。
それが足りないなら「労働」や「価値」を提供して埋め合わせる必要がありますよね。
で、区分所有法にはこう書いてます。
なので、お金払いたくないならあなたがその分働いて埋め合わせてくださいね、という話です。
但しこれをそのまま言うとケンカになるので、説明会や総会等では管理委託費値上げの妥当性や、理事会での検証の経緯を丁寧にお話して管理費の値上げを提案した方が良いです。
上述の「原理原則」は心の片隅に置いておき、反論があったときに自分が折れないようにするための支柱にしてください。
管理委託費が理由のリプレイスはNG
最後に、これもよくある話ですが「お金が足りないから管理会社を替えて支出削減しよう!」というやつ。
冒頭で述べたとおり問題を先延ばしするだけで、その場は凌げても時限爆弾のようにいつ爆発するかわかりません。
まぁ現管理会社が解約ありきで値上げを要求してきているなら仕方ありませんが…(とはいえその原因とは向き合わないと次の管理会社からも見放されるリスクがあるので改善を考えなければなりませんが)
お金が理由で管理会社を替えるとロクなことになりません。
そもそも管理会社は先ほどお話したとおり横並び意識が強いので、管理会社を替えてもそう金額は変わりません(変わるとしたら必ず何かしらの理由があります)し、安くなったとしてもそれが未来永劫そのまんま続くことはあり得ません。
↓の記事でこの点について触れていますが、何が問題の本質なのかは間違えないようにしましょう。
マンションの管理委託費の値上げ要求まとめ
今回は管理会社からのマンションの管理委託費値上げ要求とその対処法についてお話しましたが、いかがでしたでしょうか。
管理会社も商売ですから、管理委託費をしっかり貰えなければ成り立ちません。
とはいえあまり細かいことを考えるのは得意では無かったりしますから、値上げ要求があったときは理事会側としても妥当性の検証はした方が良いと思います。
きちんとした説明を受け、多くの組合が管理会社とうまくお付き合いできることを祈ります。