前回の記事で少しだけ触れたマンション理事会の「決められない病」。
あなたのマンションでもこんなことは起きていませんか?
「理事会で全員賛成して総会に上げたのに、出席者の1人が猛反対して理事長が議案を取り下げてしまった…」
「修繕積立金の値上げを提案したのに、『支出削減をするまで賛成できない』と言われて検討がストップしてしまった…」
「必要な工事なのに『将来の修繕計画の精査が先だ』という反対者が数名出て審議保留に…」
私もよく見てきました。
理由はいくつかあるのですが、いま、マンションの理事会でこの「決められない病」が蔓延しています。
今回は、
- 必要な工事が決められない
- 修繕積立金の値上げが決められない
- 管理費等滞納者への法的措置が決められない
というテーマで、私の実体験を交えてお話しします。
理事会に蔓延する「決められない病」
もう完全に無関心で、理事会も総会も管理会社の割と優秀なフロントさんが全部取り仕切ってくれて、総会も毎年30分くらいでしゃんしゃんと全議案可決…みたいなマンションならば「決められない病」とは無縁ですが(それはそれでどうなんだという問題はありますが…)
総会の出席率もそこそこで全体の6割以上が委任状や議決権行使書ではなく実際に出席するマンションとかだと、そのマンションの【ドン】というかなんというか…
↑こいつみたいなやつが出てくるわけです。
で、タチの悪いことにこの手の人は声が大きい上に何故か自信満々で言い切り系の発言の仕方をします。
「法律違反だ!」
「理事会の責任だ!」
「そんなのは間違っている!理事長の責任を追及する!」
といった具合。
いや、本当に法律違反だったり間違っているのなら指摘していただいた方がよいのです。
が、大抵の場合はその議案を潰すという結論ありきで難癖をつけているか、もしくは市区町村が主催するマンション管理セミナーとかで聞きかじったことに尾ヒレを付けて話しているかのどちらか。あとは本当に頭のおかしい人
昨日聞いた話をさも3年前から知っていたかのように話す技術に長けた人っていうのがいるわけです。
そしてこの手の人が現れた時、心優しい理事長さんやその他大勢の人たちは「もしかしたら自分たちが間違っているのかも…」とか、「恨みを買っても嫌だし…」とかで言いなりになって議案を取り下げてしまう。
これがマンションの【決められない病】です。
これを繰り返していると後々本当に決めなければいけない議案にぶち当たったとき大変です。
必要な工事が決められない
ここからは私の実体験をご紹介します。
昔、私が担当していた神奈川県内にある総戸数30戸ちょっとのマンションなのですが、
まさにこいつ↑みたいな区分所有者がいまして。
- どこかのセミナーで聞きかじったのか、「管理会社の収納口座を通すなんて危険だ!管理費等の徴収は原則方式にするべきだ!」とかで、収納代行業者の利用を拒否。そのせいで区分所有者全員、組合口座と同じ銀行・同じ支店で新たに口座を作り、金額の変更があるたびに毎回わざわざ自分で銀行へ行って「自動送金依頼書」を書き直す羽目に。なんのための管理会社&保証契約やねん。
- 「電子ブレーカーの設置は共用部分の重大変更だから特別多数決議にすべきだ!管理会社はマンション管理士資格を持っていないから知らないのだ!」とかで総会議案書が配りなおし。
- 「電波障害対策施設の撤去は共用部分の重大変(以下同文)」で総会議案書が配りなおし。標準管理規約コメントに【既に不要となった(中略)高置水槽等の撤去工事は普通決議により、実施可能】とあるんですけど…
- 共用廊下の長尺シートの全面張替えを議案上程したら「今後の長期修繕計画書の精査が先だ!」とかで大荒れ、採決の時にはみんなが顔色伺って挙手せず、否決に追い込まれる。すでに20年近くほったらかしで膨れや破断だらけなんですけどどうするんですかね…
- 受水槽の連通バルブや圧力タンクのダイヤフラムが破損しているため直結増圧給水方式への変更を上程したら「震災時に断水したらどうする!」とかで否決。じゃあということで壊れた連通バルブや圧力タンクの交換は最低限やりましょうと提案したら「給水できてるから必要ない!」とかで理事会否決。
他にもあった気がしますが…
まぁ色々な考え方はあるのですが、何が一番まずいって、
採決の時にみんなこの人の顔色伺うんですよ。
で、理事会もこの人の「待った」が掛かるともう言われるがまま。
他のはともかく長尺シートの張替えについては、「長期修繕計画書の精査」とは無関係です。
今、膨れや破断箇所があるからまずは直そうという話なわけですから。
どうしても先々のお金が心配なら時期理事会で別問題として長期修繕計画書の精査をするべきです。
今は良いかも知れませんが、いつかツケを払わされる時が来ます。
ちなみにこのマンション、付き合いきれなくなった管理会社から管理委託費の増額を要求され、結局別の管理会社に変更しましたが、事実上管理会社側から切られるのはこれで2回目。現在某大手独立系管理会社になってますが、ほぼほぼリーチが掛かっていることに早く気付いたほうが…
修繕積立金の値上げが決められない
こちらは神奈川県内の別のマンションでのお話し。
総戸数は20世帯強の小規模なマンションで、例のあいつみたいなうるさい組合員もいない平和な管理組合です。
ところが、平和すぎるのも良い事ばかりではなく。
あまりに平和で管理にとやかく言う人がいないので、管理会社のフロントさんもほったらかし。
途中からフロントさんが変わって第5期くらいに修繕積立金の改定を提案しますが、そのフロントさんがまた気の弱い人でして。
「あの、そろそろ将来のために修繕積立金の値上げを…」
とか提案したようなのですが…
理事の反応が薄かったのでまさかの提案取り下げ。
いやいや、あんたプロだからマズいのわかるよね?㎡単価60円切ってたらだいぶヤバいのわかるよね!?笑
そんなこんなで私が引き継いだのが第7期。
建物も比較的劣化が早く、長尺シートが浮いていたり、廊下の腰壁では既に爆裂が出ている等、大規模修繕工事の先延ばしは厳しいと言わざるを得ない。
そのような状況と、理事会で長期修繕計画書をきちんと説明したところ、5名の役員全員が「これはもう上げるしかないね」ということでようやく理事会の合意が取れましたが、計画通り大規模修繕工事をするには現行の5倍の金額への値上げが必要。
今まで戸当たり月額4,000円だった修繕積立金を月額20,000円まで引き上げるわけですから、総会での猛反対は必至。
が、「やるっきゃない!」ということで役員さんと協力して、区分所有者全員が聞いてくれるまで期中に2回の説明会を実施し、通常総会では反対者0の全会一致で可決承認することができました。
計画通りならあと2年くらいで大規模修繕工事を迎え、最低限必要な資金は確保できると思いますが、修繕積立金の値上げを決められないのは、負担を先延ばしにするだけですし、先に延ばせば延ばすほど負担は重くなります。
また、このマンションでは皆さんのご理解を得ることが出来ましたが、どのマンションでもそううまく合意形成ができるとは限らないので、「まだ大丈夫」と思わず、修繕積立金の値上げはできるだけ早いうちから取り組むようにしてください。
管理費等滞納者への法的措置が決められない
先日管理クラスタの間で話題になった小麦100コロスでも取り上げられていましたが、
「管理費払えない人は出ていけっていうの!?」
「困ったときはお互い様で、助け合って暮らしていけばいい」
「○○さんの家庭の事情はしているでしょう?あんまり気の毒じゃないの…」
とかで滞納をそのままにしている管理組合って結構あるんです。
申し訳ありませんが、管理費等を払えない人は本当に出て行ってもらいましょう。
それが可哀想だと思うなら、個人的に自腹で肩代わりする等してあげてください。
で、なんで滞納者に厳しくしないといけないかというと、もちろん【管理規約に定められているから】なのですが、ここで1人甘やかした前例を作ると、他に滞納者が出た時に強く督促しにくくなるので、どんどん滞納者が増えてしまうから。
人間としての情があるのは重々承知していますが、マンションは区分所有者全員の共有財産ですから、どんな事情があろうともお金に関してはシビアにいくべきです。
マンション理事会の決められない病まとめ
今回はマンション理事会の決められない病についてお話ししましたが、いかがでしたでしょうか。
決められない病の怖いところはすぐに問題が表面化せず、いざ決めなければならないという局面を迎えた時には手遅れになっているか、かなりリカバリーが困難な状況に陥るという点。
以前の記事でもお話ししたとおり、
- 反対者がいる場合、理事会はできる限り理解を得る努力をし、それでもダメなら反対者がいても管理規約の可決要件を満たしていればきちんと実行する
- 反対者がいても安易に議案を取り下げない
- 総会の委任状、議決権行使書は【マンションの区分所有者全員が出す(参加する)べきもの】というクセを付ける
ということを心がけて悪しき前例を作らない努力をし、決められない病からの脱却を目指しましょう!